こんにちは、講師のカズです。
エコロジカル・アプローチ、プレイモデル、戦術的ピリオダイゼーション。
ここ数年、サッカー指導の世界にはいろんな理論が入ってきました。
ただ、それらを学んでも、どこか消化しきれないと感じる方は多いのではないかと思います。
例えば、以下のように感じる方もいるかと思います。
・流行りの理論を勉強しても、現場でどう使えばいいのかピンとこない
・選手への声かけやミーティングが、思ったほど効いていない気がする
・どんな練習を組めば「サッカーが上手くなる練習」になるのか、自信が持てない
僕自身、複雑系やシステム思考に取り組んで15年ほどになりますが、この考え方を理解してから、指導現場での捉え方が大きく変わりました。
現場で起こる問題のほとんどが、この視点で説明できると感じています。
この記事では、なぜ複雑系・システム思考が今後10年のサッカー指導のスタンダードになると考えているのか、その理由を「限定合理性」「追える変数」「フラクタル」という3つの具体例と一緒に解説します。
読み終える頃には、明日の練習や試合での選手の見え方が少し変わると思いますので、最後までご覧ください。
1. なぜ複雑系・システム思考が「今後10年のスタンダード」なのか

① 流行りの理論は、すべて同じ土台の上にある
戦術的ピリオダイゼーション理論、プレイモデル、そして最近注目されているエコロジカル・アプローチ。
よく考えると、これらのベースにあるのは、基本的に複雑系・システム思考の考え方です。
例えば、複雑系の中心概念に「自己組織化」と「創発」があります。
エコロジカル・アプローチを学ばれている方なら、自己組織化と聞いてピンとくると思いますし、プレイモデルを勉強されている方なら、プレイ原則は「自己組織化するためのルール」のようなものだと気づくはずです。
つまり、個別の理論を別々に覚えるのではなく、土台にある複雑系・システム思考を押さえれば、それぞれの理論が一本の線でつながります。

② 15年の現場実践で「しっくりくる」が積み重なった
僕がこの考え方を重要だと思う理由は、理屈だけではありません。
現場で長くやってきて「あ、これはなんかうまくいくな」と感じていたことが、複雑系の概念で理論的に説明できた経験が、たくさんあったからです。
感覚でやっていたことに理屈の裏付けが取れると、指導はぶれなくなります。
この「しっくりくる」の積み重ねが、今後10年の時代がこの考え方で出来ていくのではないか、と思うようになった理由です。
③ 現場の問題のほとんどが、この考え方で説明できる
現場で起こるいろんな問題や現象、それに対する解決方法を考えたとき、システム思考や複雑系の概念はピタッと一致します。
むしろ、ほとんどのことはこの視点で説明できると感じています。
ここからは、その具体例を3つ紹介します。
2. 「今のはパスだろ」というコーチングに意味がない理由

① 選手は選手なりに、合理的に判断している
ジュニアの試合で、選手がパスを出さずにドリブルを選んでミスをしたとします。
そこで「いや、パスコース見えてただろう」「そこは絶対パスでしょう」と声をかける場面は、よくあるかなと思います。
ただ、システム思考の「限定合理性」という概念を知ると、このコーチングにはほとんど意味がないことが分かります。
限定合理性とは、人間は行動するとき、あくまでその個人の中では合理的な判断をしている、という考え方です。
ドリブルを選んだ選手は、その選手の中では「パスより自分で運んだ方がいい」と合理的に判断しています。
ただし、その判断は限られた情報の中での判断でしかありません。
人間は必ず、不完全な判断をしているということです。
② 指導者の判断も、限られた情報の中にある
ここが大事なところですが、外から「今のはパスだろう」と言っている僕ら指導者の判断も、同じく限定合理性の中にあります。
ベンチから見えている景色と、ピッチの中で選手に見えている景色は違います。
お互いが限られた情報で判断しているのに、結果だけを見てダメ出しをしても、選手の次の判断は変わりません。
③ ダメ出しではなく「見える情報」を広げてあげる
では、どうすればいいのか。
必要なのは、選手の限定合理性を「拡張」してあげることです。
その選手がキャッチアップできていなかった情報を、どこまで拾えるようにしてあげられるか。
ミスを責める言葉ではなく、見える世界を広げる働きかけが、指導者の仕事になります。
3. 人間が同時に意識できるのは、2〜3個まで

① ミーティングで10個伝えても、パニックになるだけ
システム思考でよく言われる話に、「人間が同時に追える変数は2から3が最大」というものがあります。
ある局面で意識的に考えられることは、大体2つか3つまでということです。
試合前やハーフタイムのミーティングで、指導者が不安になって「あれも伝えなきゃ、これも言っておかなきゃ」と10個伝えたくなる場面はよくあります。
ただ、それは人間の追える変数の上限を大きくオーバーしているので、効果がないどころか、選手はパニックに陥ります。
② 「ここだけ意識して、あとは自由」の理屈
僕は練習や試合で、選手に「ここだけ意識して」「こことここだけ意識して、あとは自由にやっていいよ」という言い方をよくします。
僕の経験上、練習や試合で選手が扱えるポイントは、多くて2つぐらいだと感じているからです。
これは性格や好みの問題ではなく、人間が追える変数は2〜3が上限という理屈に基づいています。
ミーティングで何を話すか、選手に何をアドバイスするか。
情報量をなるべく減らして、1つか2つのポイントに絞る。
複雑系やシステム思考を学んでいないと、こういった発想はなかなか出てきません。
4. サッカーはフラクタル。だから「サッカーはサッカーで上手くなる」

① 8人制と11人制は「同じもの」
「8人制と11人制のサッカーは何が違うのか」と聞かれたら、僕は「フラクタルな関係にある、つまり同じもの」だと答えます。
フラクタルとは、部分と全体が同じ構造を持っているという概念です。
なぜ同じと言えるのかというと、人数が変わっても、サッカーの本質が変わっていないからです。
だからこそ、11人制の試合をやっている年代でも、4対4のミニゲームでトレーニングする意味があります。
サッカーの本質が壊れていない限り、それは小さなサッカーそのものだからです。
② 敵がいない練習は、サッカーと言えるのか
逆に、この視点で考えると練習の見方も変わります。
例えば「敵がいる」ことはサッカーの本質の一つです。
とすると、敵がいない状態でのトレーニングは、サッカーの本質の重要な部分が欠けているため、フラクタル性が一致しません。
「サッカーはサッカーをすることで上手くなる」という言葉や、スペインでなるべく敵がいる状態でトレーニングする理由も、この観点から説明できます。
日々の練習メニューを組むときに「これはサッカーになっているか?」という問いを持てるようになるはずです。
③ プレイモデルの「次」に進むためにも土台がいる
サッカーの指導理論は、時代とともに変化していきます。
攻撃のパターンを反復するシャドートレーニングの時代から、プレイ原則によって自己組織化を促すプレイモデルの時代へ。
そして今は、プレイモデルも過度にやりすぎると中央制御になってしまう、という次の課題が見えてきています。
即興的なプレイが求められる時代に、プレイモデルの中に自己組織化の余白をどれだけ残すか。
1つのプレイモデルに固執せず、1試合の中で複数のモデルが見え隠れするようなサッカーにどう向き合うか。
この「プレイモデルを崩す」「自由度を高める」という話は、土台にある複雑系・システム思考が分かっていないと、多分よく分からないと思うんですよね。
次の時代にどんな理論が来るとしても、ベースとなるシステム思考は必ず押さえておく必要があると考えています。

まとめ:複雑系・システム思考は「現場のための」理論です

・エコロジカル・アプローチもプレイモデルも、土台は複雑系・システム思考
・「今のはパスだろ」が効かないのは、選手も指導者も限定合理性の中にいるから
・人間が同時に意識できるのは2〜3個。声かけもミーティングも絞る
・サッカーはフラクタル。本質が保たれた練習なら、小さなサッカーになる
・プレイモデルの「次」に進むためにも、この土台は必要
この記事では、複雑系・システム思考がサッカー指導のスタンダードになると考える理由について解説しました。
難しそうに聞こえる理論ですが、中身は「現場で起きていることを説明してくれる」道具です。
まずは明日の練習で、選手に伝えるポイントを2つまでに絞ることから、試してみてください!
なお、この記事で紹介した内容を体系的にまとめた教材『複雑系としてのサッカー』【全8巻】を公開しています。
図解と読み方ガイド付きで、土台からじっくり学びたい方はこちらをご覧ください。
https://zemi.junior-soccer.college/lp/complex/
