こんにちは、講師のカズです。
低学年やキンダーの指導では、しっぽ取りや鬼ごっこ、ドリブル競争のような「楽しい系」のメニューをやる場面が多いと思います。
僕はこういったメニューを「ファン系(FUN・楽しい系)のメニュー」と呼んでいます。
子どもたちは喜んでやってくれるのですが、指導者としては別の不安が出てくることがあります。
例えば、以下のように感じる方もいるかと思います。
・周りから「ただ遊ばせているだけじゃないか」と思われそうで不安
・「練習は楽しくやりなさい」と言うと、不真面目に聞こえないか気になる
・そもそも「楽しさとは何か」と聞かれたら、うまく答えられない
僕自身、20代の頃はドリルばかりの超テクニック至上主義でした。
そこから考えが変わるきっかけになったのが、今回お話しする「遊び」と「楽しさ」の定義です。
この記事では、子どもにとっての遊びとは何か、サッカーの楽しさとは何かを、僕が若い頃に赤線を引いた本の言葉を借りながら整理します。
この記事を読めば、「楽しくやる」を自分の言葉で説明できるようになると思いますので、最後までご覧ください。
1. 「ただ遊ばせているだけ」という不安の正体

①ドリルにすると楽しそうじゃない、遊びにすると不安になる
小学1年生を教える場面を想像してみてください。
ゲームをやっても団子になるし、そもそもボールが蹴れない。
だから要素還元して、ドリブルの練習、パスの練習と分解してやりたくなる時があると思います。
ところが、ドリルでやらせてみると子どもたちがあまり楽しそうではない。
そこでドリブル競争のような遊びの要素が入ったメニューを試してみると、今度は「これ、ただ遊んでいるだけじゃないかな」という不安に駆られる。
低学年の指導では、この行ったり来たりがよくあるかなと思います。
②「なぜならば」を言い切れるかどうか
前回の記事では、この不安の正体の一つは知識だとお話ししました。
サッカーコーチは「なんで今この練習をするんですか」と聞かれた時に、「なぜならば」とバシッと言い切らないといけない、と僕は常日頃言っています。
ただ、低学年やキンダーの指導では、知識を持ったうえでもう一つ乗り越えないといけない壁があります。
それが「遊びとは何か」「楽しさとは何か」という、言葉の定義の問題です。
2. 遊びとは何か:遊びこそが人間をスキルアップさせる

①遊び=不真面目、と捉えられてしまう理由
僕は究極的には、遊びこそが人間をスキルアップさせる全てである、と思っています。
哲学的な領域になるのかもしれませんが、これは子どもだけでなく、僕ら大人であっても同じだと感じています。
問題は、「遊び」という言葉の捉えられ方が人によって全然違うことです。
遊びイコール不真面目、というふうに捉える方は、指導者の中にもものすごく多いと思います。
だから「練習は楽しくやりなさい」と言うと、「楽しくやるだけでいいんですか」と返ってくることがあります。
「育成か勝利か」という話と同じで、「遊び」や「主体性」といった言葉はいろんな側面から取れる意味を持っています。
うまく説明できないと、遊びという要素の重要さがなかなか伝わりません。
②25年前に赤線を引いた本の「遊び」の定義
僕らの世代で指導歴が長い人なら、遊びと聞いてパッと思いつく本があると思います。
横浜マリノスが出した『ジュニアサッカー 小学生の練習メニュー』という、25年くらい前の本です。
僕のデスクの後ろの本棚に今もあって、20代の頃に引いた赤線が残っています。
その中に、サッカーとは子どもたちにとって本質的には遊びである、というくだりがあります。
子どもにとってサッカーは習い事ではなく、唯一、主体性を持って楽しめる遊びだと。
楽しいからこそ上手くなりたいと思うし、楽しいからこそ続けるし、もっと練習する。
遊びの定義は、僕は今でもこの本の言葉をそのまま引用して使っています。
遊びとは子どもの特権であり、本来的に自由で主体的な活動である。
子どもたちは遊びの中から楽しさを見出し、内発的動機づけを行うことができる。
楽しいことには素晴らしい集中力を発揮し、楽しくなくなったら遊びをやめるのが子どもの自然な姿である、という内容です。
だから、始めたばかりの子が自発的にやめたくなるなら、それは遊びという本質を与えられなかったコーチの責任であって、その子の適性の問題ではない、と続きます。
単にふざけているとか不真面目ということではなく、「人間が学んで成長するとはどういうことか」「好奇心や探求心とは何か」が凝縮された言葉だと僕は感じています。

3. 楽しさとは何か:3秒で答えられますか?

①サッカーの楽しさ、6つの定義
では、楽しさとは何でしょうか。
前回の「コーディネーションを7つ言ってください」と同じで嫌な感じかもしれませんが、3秒で答えてみてください。
同じ本には、サッカーの楽しさとして6つが挙げられています。
僕もこれを引用して、自分の中の定義にしています。
・体を動かすこと(運動欲求を満たす喜び)
・できるようになること(達成感)
・仲間やコーチに認めてもらうこと(認知される喜び)
・勝つこと(勝利の満足感)
・仲間やコーチと協力すること(一体感の喜び)
・自分自身に勝つこと(努力が実る喜び)
この6つは同じレベルにあるものではなく、学年によって大きく違うとも書かれています。
こうして並べてみると、楽しさというのはかなり幅の広い言葉だと分かると思います。
②「楽しむ」と「ふざける」は違う
どうでしょうか。
楽しくやるイコール不真面目、というふうに聞こえるでしょうか。
僕はそう思っていません。
僕は中学生にもよく「楽しむイコールふざける、じゃないよ」と言います。
できるようになった達成感、「頑張ってるね」と認められる喜び、勝つこと、協力すること、努力が実ること。
こういったものを総合的に見て「楽しさ」と呼んでいるので、僕が子どもたちに要求しているのは質の高い楽しさです。
「遊びとは何か」「楽しさとは何か」を言えることは、指導者の理論背景としてとても大切かと思います。
僕のように書籍から引用してもいいですし、指導者仲間とディスカッションして決めてもいい。
ある程度の論理的な背景があれば、それで十分だと思います。
4. しっぽ取りの中で「勝手に起きていること」を見る

①サッカーの文脈からは離れている。それでも
ここで話を低学年の現場に戻します。
しっぽ取り鬼やボール集め競争をやっている時、「これはトレーニングなんだろうか」と感じることがあると思います。
正直に言えば、「サッカーはサッカーをすることで上手くなる」という意味においては、サッカーの文脈から少し離れています。
ただ、子どもにとって遊びとは何か、指導者は何をしなくてはいけないのか、という文脈で見ると話は変わります。
内発的動機づけや選手の段階を考えれば、こういうメニューをやることにもある種の意味はある、という考え方もできると思います。
②子どもたちの中で、勝手に起きていること
そのうえで、僕が先に見るようにしているのは、ゲームの中で子どもたちに「勝手に起きていること」です。
しっぽ取り鬼ごっこなら、よく言われるのはグッドボディシェイプです。
しっぽを取られないように相手に正対したり、お尻を見せないように体の向きを作ることが、自然と起きています。
グリッドの中で自由にドリブルしてぶつからないように、というメニューなら、ドリブルしながら周囲を認知することが起きています。
それだけやっていればサッカーが上達するのかというと、それは分かりません。
それでも、ファン系のメニューにもある種のメリットがあることは確かだと思います。
③だから練習メニューにも、やり方にもレパートリーがいる
僕がいつも言っている「文脈」というのは、こういうことです。
選手のレベルや年齢によって、どんな練習メニューをやるのか、どんな言葉を伝えるのかを変えなくてはいけません。
例えば、U-10を担当することになった4月、まだお互いを全然知らない状態を想像してみてください。
アイスブレイクの得意なネタを持っているか、低学年で盛り上がるメニューを持っているか。
それが指導者の引き出しの多さにつながります。
やり方も同じです。
「ロンドとポゼッションとシュートトレーニングしか知りません」ではなく、ファン系もアイスブレイク系も知っている。
極端に言えば、JFAっぽくやってみるか、スペインっぽくやってみるか、という選択肢もあります。
やり方のレパートリーがあると、文脈に合わせて指導できるようになります。
5. 低学年の指導は、指導者にとって「いいチャンス」

①2対4で負けて、ドリルだけじゃダメだと知った
僕がマリノスの本を読んだのは、25歳くらいの時でした。
きっかけは、当時全国4位だった横浜マリノスの追浜のチームとのトレーニングマッチです。
結果は2対4で負けました。
向こうはすごく大人みたいなサッカーをしていて、こっちはゴリゴリにドリルばかりやっていた超テクニック至上主義です。
戦術やサッカーの質の違いにびっくりして、そこから「ドリルだけじゃダメだな」と考えるようになりました。
もう一回ちゃんと勉強しないといけないと思って読んだのが、あの本だったということです。
②縦の経験で、指導の見え方が変わる
低学年の指導をやるというのは、指導者にとって結構いいチャンスです。
遊びとは何か、楽しさとは何か、内発的動機づけとは何か、コーディネーションとアジリティは何が違うのか。
そういったことを学べる、いい機会だからです。
僕らと一緒にやっているある講師は、小学生の指導を20年以上やっているのに、今年の4月からキンダーを始めた段階では壊滅的にできませんでした。
戦術のことはいろいろ知っている勉強熱心な方なのに、現場力の基礎知識が抜けていた。
それは低学年をやる経験がなかったから、そこの学びがなかっただけだと思います。
ジュニアとジュニアユースの両方をやっている方なら分かると思いますが、ジュニアユースをやると「ジュニアの時にもっとこうした方がいいな」と見え方が変わります。
これと同じで、キンダーをやると「ジュニアの時にこうだから、キンダーではこうした方がいいな」が見えてきます。
いつも高学年をやっているなら、週に1回や月に1回でも低学年やキンダーのスクールっぽい指導をやってみる。
縦の年齢、文脈、上手い子のグループ、始めたばかりの子のグループ。
いろんな経験をすることで、指導のスキルは上がっていくと思います。

③現場で冷や汗をかくのは、指導者のトライ&エラー
今、低学年を担当している方は難しいと思います。
現場で冷や汗をかいて「やばい」となりながらやる。
でも、そこは指導者のトライ&エラーです。
僕も現場で冷や汗をかいたことは何回もありましたから、ぜひそこはチャレンジしてほしいなと思います。
まとめ
・「ただ遊ばせているだけ」という不安の裏には、「遊び」と「楽しさ」の定義が曖昧なことがある
・遊びとは、自由で主体的な活動。子どもは遊びの中から楽しさを見出し、内発的動機づけを行う
・サッカーの楽しさは6つ。運動欲求・達成感・認められる喜び・勝利・一体感・努力が実る喜び
・楽しむとふざけるは違う。指導者が要求するのは質の高い楽しさ
・ファン系のメニューでは、子どもの中で「勝手に起きていること」を先に見る
・低学年の指導は、指導者としてのベースを作るチャンス
この記事では、子どもにとっての遊びとは何か、サッカーの楽しさとは何かについて解説しました。
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