この記事は、レベル別コーチング指導ガイドの【中級者向け】です。 基本的なコーチング技術を身につけた指導者が、選手の心理面や動機づけについてより深く学び、実践するための方法を詳しく解説しています。
こんにちは、講師のカズです。
ジュニア年代のサッカー指導では、選手の心理面への理解と動機づけの技術がとても重要です。
しかし、「どうやって選手のやる気を引き出せばいいか分からない」「自主性を育てる方法が分からない」と悩む指導者の方も多いのではないでしょうか。
僕自身、基本的なコーチング技術は身につけていても、選手の内面に働きかける方法については長い間試行錯誤していました。
表面的な技術指導はできても、選手の心の中にある可能性を引き出すことの難しさを感じることがありました。
・選手のやる気を引き出す具体的な方法が分からない
・自主性を育てたいが、どうアプローチすればいいか分からない
・選手一人ひとりの個性に応じた指導ができない
この記事では、動機づけの理論と実践方法から、自主性を育む技術、個性に応じた指導法まで詳しく解説します。
この記事を読めば、選手の心理面に働きかける高度なコーチング技術を身につけることができ、選手の潜在能力を最大限に引き出せるようになると思いますので、最後までご覧ください。
1. 動機づけの理論と実践をマスターする

①外発的動機づけと内発的動機づけの使い分け
スポーツ心理学における動機づけには、大きく2つの種類があります。
外発的動機づけ
・外部からの刺激によってやる気を引き出す
・褒める、認める、報酬を与える
・短期的には効果的だが、長期的には限界がある
内発的動機づけ
・選手の内側から湧き出るやる気
・楽しさ、興味、成長実感から生まれる
・長期的に持続し、自立的な成長につながる
初心者の段階では外発的動機づけが効果的ですが、選手が成長するにつれて内発的動機づけへと移行させることが重要です。
参考記事:ジュニアサッカー【動機づけ】子どものやる気を引き出す4つの技術
②4つの動機づけ技術を実践する
僕が現場で実践している動機づけを高める方法を紹介します。
①段階的な目標設定
選手のレベルに応じて、達成可能な小さな目標を設定し、成功体験を積み重ねる。
②選択権を与える
練習メニューや役割の一部を選手に選ばせることで、主体性を育む。
③成長の可視化
選手の成長を具体的に伝え、自分の進歩を実感させる。
④意味づけの共有
なぜその練習をするのか、どんな効果があるのかを説明し、納得感を高める。
これらの方法を文脈に合わせて組み合わせることで、選手の内発的動機づけを高めることができます。
③やる気を引き出す3ステップアプローチ
また、やる気=動機づけには段階があり、それぞれに適したアプローチが必要です。
ステップ1:関心を引く段階
・楽しい雰囲気作り
・成功体験の提供
・認められる体験
ステップ2:興味を深める段階
・少し高い目標設定
・選択権の付与
・仲間との協力体験
ステップ3:自立的な取り組み段階
・自己目標の設定支援
・振り返りの習慣化
・責任と権限の付与
サッカー初心者と、プロになりたいと思っている選手では当然モチベーションが違うのですが、これを理解しないと効果的なコーチングはできません。
選手がどの段階にいるかを見極めて、適切なアプローチを選択することが大切です。
参考記事:少年サッカー【やる気を引き出す3ステップ】モチベーションの段階
④内発的動機づけを育む環境作り
次に、内発的動機づけを育むための、環境作りもまとめておきます。
心理的安全性の確保
・失敗を責めない雰囲気
・チャレンジを評価する文化
・個性を認め合う環境
自主性を育む仕組み
・選手同士の話し合いの時間
・自分で考える機会の提供
・選手からの提案を受け入れる姿勢
成長実感の機会
・定期的な振り返りの時間
・具体的な成長の言語化
・目標達成の喜びの共有
参考記事:なぜ子どもにやる気がないのか【少年サッカー・内発的動機づけの方法】
2. 選手の自主性を育む技術を習得する

①段階的なアプローチで自主性を育てる
選手の自主性は一朝一夕では育ちません。
そのためには、段階的なアプローチが必要です。
以下は、厳密な段階ではありませんが、僕が現場で行う際の大体の目安&例です。
段階1:生活面での小さな種まき
・自分の荷物の管理
・時間を守る習慣
・仲間への思いやり
段階2:サッカー面での発話を促す
・「どう思う?」という質問
・選手同士の話し合い
・自分の意見を言う機会
段階3:チームへの参加
・練習や試合に関する提案
・チームルールの決定
・リーダーシップの発揮
この段階を飛ばして急に自主性を求めても、選手は困惑してしまいますね。
②トップダウンとボトムアップのバランス
自主性を育てる上で重要なのは、トップダウン(指導者主導)とボトムアップ(選手主導)のバランスです。
何をいつ、どの様に使うかは指導者の感覚にもよりますが、ざっくりと以下のような区分でいいと思います。
トップダウンが必要な場面
・安全に関わること
・基本的なルールやマナー
・技術の基礎部分
・チームの方向性
ボトムアップを促す場面
・プレーの選択肢
・練習の工夫
・チーム内の課題解決
・目標設定
全てを選手に任せるのではなく、任せる部分と指導者が決める部分を明確に分けることが大切です。
③発話を促す質問技術
選手の自主性を育てるためには、効果的な質問技術が必要です。
オープンクエスチョン(開かれた質問)
・「どう思う?」
・「他にはどんな方法がある?」
・「なぜそう思ったの?」
クローズドクエスチョン(限定的な質問)
・「右と左、どっちがいい?」
・「AとB、どちらを選ぶ?」
・「できた?できなかった?」
選手のレベルや場面に応じて、適切な質問を選択することで、思考を促し、自主性を育むことができます。
特に「自主性」や「コミュニケーション」が苦手な選手もいるので、最初は単純なことの量(発話する機会など)を増やし、その後に質を高めるイメージです。
参考記事:ジュニアサッカー【選手の自主性を育てる方法】現場で使える実践法
3. 個性に応じた指導法を実践する

次に、選手全員を同じようにコーチングできるわけではないので、長所と短所という観点から整理してみます。
①長所と短所を正しく捉える
効果的な個別指導のためには、選手の長所と短所を正しく捉えることが重要です。
長所の見つけ方
・得意なプレーや動き
・チームへの貢献度
・人間性の良い部分
短所の捉え方
・改善可能な技術的課題
・行動面での課題
・コミュニケーションの課題
・メンタル面での課題
重要なのは、短所を「ダメなところ」として捉えるのではなく、「成長の可能性があるところ」として見ることです。
②3つのコーチングパターンを使い分ける
選手の個性に応じて、以下の3つのコーチングパターンを使い分けています。
※〇〇型、この表現は一般的ではんく便宜上使っているだけです。
パターン1:長所伸張型
長所をさらに伸ばすことに重点を置く
・得意分野での役割を明確にする
・成功体験を積み重ねる
・自信をつけさせる
パターン2:短所改善型
課題となる部分の改善に重点を置く
・段階的な目標設定
・基礎からの積み上げ
・忍耐強いサポート
パターン3:バランス型
長所と短所のバランスを取りながら指導
・総合的な成長を目指す
・多様な経験を提供
・全体的な底上げ
どれが良い悪いではなく、選手の性格や現状のレベルに応じて、最適な方法を選択することが大切です。
参考記事:少年サッカー・長所を伸ばし短所を克服する3つのコーチング
4. 高度なコーチング技術を身につける

①コーチング・コミュニケーションの5つの技術
選手の心に響くコーチングには、高度なコミュニケーション技術が必要です。
僕なりの考えをまとめておきます。
①積極的傾聴
選手の話を最後まで聞き、感情も含めて理解する
②共感的理解
選手の立場に立って、その気持ちを理解し伝える
③適切な質問
選手の思考を促し、気づきを引き出す質問をする
④具体的フィードバック
曖昧ではなく、具体的で建設的なフィードバックを提供する
⑤信頼関係の構築
一貫性のある関わりで、長期的な信頼関係を築く
これらの技術を組み合わせることで、選手との深いコミュニケーションが可能になります。
参考記事:ジュニアサッカー【コーチング・コミュニケーション】選手の心に響く5つの技術
②選手の理解度に応じたアプローチ
選手の理解度や成長段階に応じて、アプローチを調整することが重要です。
理解度が低い段階
・視覚的な説明を多用する
・実際にやって見せる
・繰り返し確認する
・小さなステップに分解する
理解度が中程度の段階
・理由も含めて説明する
・選手の意見を聞く
・応用的な練習を取り入れる
・自分で考える時間を作る
理解度が高い段階
・抽象的な概念も扱う
・選手主導で進める
・創造的な解決を促す
・指導者役を任せる
選手の成長に合わせて、指導方法も進化させることが大切です。
③試合時の効果的なマネジメント
試合時のコーチングは、平常時とは若干異なる技術が必要です。
試合前のマネジメント
・具体的で分かりやすい指示
・選手の不安の解消
・ポジティブなイメージ作り
ハーフタイムのマネジメント
・冷静な分析と簡潔な指示
・選手の疲労度の把握
・メンタル面のケア
・後半への動機づけ
試合後のマネジメント
・結果に関わらず選手の努力を認める
・具体的な成長ポイントの言語化
・次への課題の整理 ・チーム全体の結束強化
参考記事:少年サッカー【試合におけるコーチング・マネジメント】を徹底解説
5. まとめ
この記事では、選手の心理と動機づけについて解説しました。
・動機づけの理論を理解し、外発的から内発的動機づけへ移行させる
・選手の自主性を段階的に育てる技術を身につける
・個性に応じた指導法で一人ひとりの可能性を引き出す
・高度なコミュニケーション技術で選手の心に響く指導を実践する
学習のポイント
このレベルで重要なのは、以下の4つのポイントです。
選手の心理と動機づけ
・動機づけ理論:外発的・内発的動機づけの使い分け
・自主性育成:段階的アプローチでトップダウンとボトムアップのバランス
・個別対応:選手の個性に応じたコーチングパターンの選択
・高度技術:コミュニケーション5技術と試合時マネジメント
6. 理解度チェック
以下の質問に答えられるか確認してみましょう。
・外発的動機づけと内発的動機づけの違いを説明できますか?
・選手の自主性を育てる段階的アプローチを実践できますか?
・選手の個性に応じたコーチングパターンを使い分けられますか?
・効果的な質問技術を使って選手の思考を促せますか?
・試合時の場面別マネジメントができますか?
・長所と短所のバランスを考えた指導ができますか?
すべて答えられたら、次のレベルに進む準備ができています。(たぶん…)
選手の心理面への理解と動機づけの技術は、コーチングの核となる部分です。
焦らず確実に身につけて、選手の潜在能力を最大限に引き出せる指導者を目指してください!
7. 学習ステップ
推奨学習順序
・現在のレベル:基本概念の理解
・次のレベル:基本的なコーチング技術の習得
・中級レベル:選手の心理と動機づけの理解(←今ここ)
・上級レベル:チーム運営とシステム化
選手の心理と動機づけを理解したら、次はチーム運営や複数コーチでの連携など、より高度で組織的なコーチング技術について学習することをおすすめします。
指導の一貫性やシステム化について理解を深めていきましょう。
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チーム運営や高度なコーチング技術について学習しましょう。
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基本的なコーチング技術をもう一度確認したい方はこちら。
📗 [ジュニアサッカー【超初級者】指導者向け:コーチングの基礎理解ガイド]
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