この記事は、レベル別コーチング指導ガイドの【上級者向け】です。 選手の心理と動機づけを理解した指導者が、チーム運営や複数コーチでの連携など、より高度で組織的なコーチング技術を実践するための方法を詳しく解説しています。
こんにちは、講師のカズです。
ジュニア年代のサッカー指導では、個人への指導技術に加えて、チーム全体のマネジメントや指導の体系化がとても重要です。
しかし、「指導に一貫性を持たせる方法が分からない」「複数のコーチとの連携がうまくいかない」と悩む指導者の方も多いのではないでしょうか。
僕自身、個別の選手への指導はできるようになっても、チーム全体を俯瞰して体系的に指導することの難しさを長い間感じていました。
複数のコーチがいる環境で、指導方針を統一することの大変さも経験しました。
・指導に一貫性を持たせる具体的な方法が分からない
・複数のコーチとの役割分担や連携がうまくいかない
・チーム全体の成長を促すシステム作りができない
この記事では、指導の一貫性を保つシステム作りから、複数コーチでの効果的な連携方法、高度なコミュニケーション技術まで詳しく解説します。
この記事を読めば、組織的で体系的なコーチングを実践できるようになり、チーム全体の成長を効果的に促せるようになると思いますので、最後までご覧ください。
1. 指導の一貫性とシステム化を構築する

①「ランダムコーチング」から脱却する
多くの指導者が陥りがちなのが、「ランダムコーチング」です。
ランダムコーチングとは、その時々の状況に応じて場当たり的に指導してしまうことです。
例えば、試合で課題が見つかるたびに、次の練習でその課題に取り組もうとして、結果的に指導がブレブレになってしまう状態です。
僕も以前は、試合のたびに「今度はこれを直そう」「次はあれを教えよう」と思って、結果的に選手が混乱してしまうことがありました。
ランダムコーチングの問題点
・選手が混乱して定着しない
・指導者自身も方向性を見失う
・長期的な成長が見込めない
・チーム全体の成長が不安定
②指導の軸を作る3ステップ
ランダムコーチングから脱却するためには、指導の軸を明確にする必要があります。
ステップ1:チームの理念・方針を明確化する
・どんなチームを目指すのか
・どんな選手を育てたいのか
・大切にする価値観は何か
ステップ2:優先順位を設定する
・今シーズンの重点課題を決める
・長期目標と短期目標を整理する
・選手の成長段階を把握する
ステップ3:一貫した基準を作る
・褒める基準と叱る基準を明確にする
・指導方法の統一ルールを作る
・評価基準を具体化する
この3ステップを踏むことで、指導に一貫性を持たせることができます。
参考記事:【脱・ランダムコーチング】サッカー指導の軸を作る3ステップ
③長期的な指導計画の立て方
少しコーチングの話しとズレますが、一貫性のあるコーチングを行うためには、長期的な視点での計画も必要です。
年間計画の立て方
・シーズン全体を3〜4期に分割
・各期の重点テーマを設定
・月別・週別の具体的な目標を決定
月間計画の立て方
・年間計画をベースに月のテーマを決定
・技術・戦術・フィジカル・メンタルのバランスを考慮
・試合スケジュールとの連動を図る
週間計画の立て方
・月間テーマを週単位に分解
・練習内容の系統性を保つ
・選手の疲労度や学習状況を考慮
この計画性によって、場当たり的ではない体系的な指導が可能になります。
その文脈に合わせて、コーチングを変化させていくイメージです。
2. 複数コーチでの効果的な連携を実現する

次に、コーチングの技術そのものではなく、複数指導者がいるケースです。
役割分担や連携を図ることでコーチングの仕方が変わります。
①役割分担の明確化
複数のコーチがいる場合、明確な役割分担が不可欠です。
メインコーチの役割
・チーム全体の方針決定
・戦術的な指示の統括
・選手との主要なコミュニケーション
・最終的な判断と責任
サブコーチの役割
・個別指導のサポート
・安全管理の徹底
・メインコーチの補完
・専門分野での指導
役割分担で注意すべきポイント
・指示が重複しないようにする
・選手が混乱しないよう統一された方針で臨む
・互いの指導を尊重し合う
・必要に応じて役割を調整する
②試合中の連携システム
特に試合中は、コーチ同士の連携が重要になります。
基本的な連携ルール
・メインコーチが主要な指示を出す
・サブコーチは補完的な声かけを行う
・選手への指示が矛盾しないよう事前に確認
・ハーフタイムでの情報共有を徹底
効果的な連携パターン
・メインコーチ:戦術的指示、ゲーム全体の管理
・サブコーチ:個別選手への細かいアドバイス、安全管理
避けるべき状況
・複数のコーチが同時に違う指示を出す
・コーチ同士で意見が分かれて選手の前で議論する
・役割分担が曖昧で選手が混乱する
参考記事:少年サッカー【役割の明確化】メインコーチが細かい指摘をすべきタイミングとは?
参考記事:【コーチ2人以上は役割を明確に】少年サッカー・試合中のコーチング
③コーチ間のコミュニケーション体制
効果的な連携のためには、コーチ間での密なコミュニケーションが必要です。
定期的なミーティング
・練習前の方針確認(10-15分)
・練習後の振り返り(15-20分)
・月1回の詳細検討会(60-90分)
情報共有の仕組み
・選手の個別情報の共有
・指導方針の統一確認
・保護者対応の情報共有
・安全管理情報の徹底
意見の相違が生じた時の対処法
・まずは選手のいないところで話し合う
・チームの理念に立ち返って判断する
・最終的にはメインコーチの判断を尊重
・継続的な改善のために建設的に議論する
指導者の方は、なかなか時間がない方も多いと思いますが、できることから少しずつ始めましょう。
3. 高度なコミュニケーション技術を実践する

①選手の心に響く5つのコミュニケーション技術
上級レベルでは、より高度なコミュニケーション技術が求められます。
この辺になると、コーチング単体ではなく、コミュニケーション全般の話になりますね。
技術1:多層的な理解度把握
単に「分かった?」と聞くだけでなく、複数の角度から理解度を確認する
・言語的確認:説明させる
・行動的確認:実際にやらせる
・応用的確認:違う場面で試させる
技術2:個別最適化された声かけ
選手一人ひとりの性格、学習スタイル、現在の状況に応じて言葉を選ぶ
・論理的な説明を好む選手
・感情的な働きかけに反応する選手
・視覚的な情報を重視する選手
技術3:建設的なフィードバックシステム
否定的な内容も成長につながるよう伝える技術
・具体的な事実を基にする
・改善方法も同時に提示する
・選手の努力や意図を認める
・将来への期待を込める
技術4:適応的なタイミング調整
同じ内容でも、伝えるタイミングによって効果が大きく変わる
・選手の心理状態を読む
・チーム全体の雰囲気を把握する
・練習や試合の流れを考慮する
技術5:信頼関係の継続的構築
一時的ではなく、長期的な信頼関係を築く技術
・一貫性のある行動
・約束を守る姿勢
・選手の成長を本気で願う気持ち
参考記事:ジュニアサッカー【コーチング・コミュニケーション】選手の心に響く5つの技術
②選手の発達段階に応じた高度なアプローチ
コーチング、コミュニケーション能力をベースに、選手の発達段階をより細かく把握し、それに応じた指導を行うことも大切です。
認知発達の段階別アプローチ
・具体的操作期(小学生低学年):体験中心の学習
・形式的操作期移行期(小学生高学年):理由も含めた説明
・形式的操作期(中学生):抽象的概念の理解
社会性発達の段階別アプローチ
・個人中心期:個人の成長にフォーカス
・仲間関係形成期:チームワークの重視
・社会的責任期:リーダーシップの育成
運動発達の段階別アプローチ
・基本運動能力習得期:多様な動きの経験
・専門技能習得期:サッカー特有の技術習得
・技能洗練期:より高度で複雑な技術習得
当然、これらは年齢で区切れるものではないですが、「選手が今どの段階にいるか」を読み解きながら、コーチングの方法や要求する内容を変えなければいけません。
上記のものは一般的な概念かもしれませんが、指導者にとっては『選手の文脈』を読み取ることです。
むしろ文脈を把握する方が難しいかもしれません。
そこで必要となるのが『観察力・分析力』ですね。
③保護者との効果的なコミュニケーション
保護者との関係構築も重要な技術となります。
ただし、これらはクラブの方針やコンセプトとも関係します。
一般的なものとして挙げておきます。
基本的なコミュニケーション方針
・透明性のある情報共有
・子どもの成長を共通の目標とする
・専門性を活かした適切なアドバイス
・家庭での取り組みとの連携
効果的な保護者対応の技術
・定期的な情報発信
・個別相談の機会提供
・チーム方針の明確な説明
・子どもの良い変化の共有
4. チーム全体の成長を促すシステム作り

①選手の自治能力を育成する
ある程度、コーチングやコミュニケーションに自信がついてきたら、自分たちでチームを運営できる能力を育てるのも良いかもしれません。
僕の表現だと、これも自己組織化を促す一部です。
段階的な自治能力育成
・レベル1:個人の責任(自分のことは自分でする)
・レベル2:相互の責任(仲間を助け合う)
・レベル3:集団の責任(チーム全体のことを考える)
・レベル4:社会的責任(他チームや地域への配慮)
具体的な育成方法
・選手主導のミーティング時間の設定
・チームルールの選手による決定
・問題解決への選手の参加促進
・リーダーシップローテーション制の導入
②データ活用による客観的な成長管理
感覚的な評価だけでなく、データを活用した客観的な成長管理も大切です。
実際に僕も、選手のデータ管理を数年にかけて行った経験がありますが、そのデータを元に、指導者同士でディスカッションするといろんなものが見えてきます。
以下は、僕が実際にどのようなデータを記録していたかの例です。
個人成長データの管理
・技術的な成長の記録
・体力測定結果の推移
・試合でのプレー回数やパフォーマンス
・目標達成度の数値化
チーム全体のデータ管理
・チーム戦術の実行度
・試合結果の分析
・練習参加率や態度の評価
データ活用の注意点
・数値だけにとらわれない
・選手の人間的成長も重視
・長期的な視点を保つ
・個人情報の適切な管理
数字を記録するのは手間はかかりますが簡単です。
しかし、その数値から何を読み取るかの方が重要ですね。
③継続的な指導力向上システム
指導者として指導スキルを上げるために必要な取り組みも記載しておきます。
全て取り組み必要はないですが、興味があるところから始めて指導力を上げましょう。
自己評価システムの構築
・定期的な指導内容の振り返り
・選手や保護者からのフィードバック収集
・他の指導者との意見交換
・外部研修への積極的参加
知識・技術の継続更新
・最新のコーチング理論の学習
・他チームの指導方法の研究
・専門書や論文の定期的な読書
・指導者ライセンスの取得・更新
指導哲学の継続的発展
・自分の指導理念の定期的見直し
・時代や選手の変化への対応
・長期的な指導者としてのビジョン設定
・社会的な責任の認識と実践
5. まとめ
この記事では、チーム運営とシステム化について解説しました。
・指導の一貫性を保つシステム作りで「ランダムコーチング」から脱却する
・複数コーチでの効果的な連携により組織的な指導を実現する
・高度なコミュニケーション技術で選手・保護者との関係を深化させる
・チーム全体の成長を促すシステム作りで持続可能な発展を目指す
記事内容でも分かるように、サッカーの指導とは戦術やコーチングといった各テーマがバラバラにあるのではなく、全てが絡み合っていますね。
学習のポイント
このレベルで重要なのは、以下の4つのポイントです。
チーム運営とシステム化
・一貫性構築:指導軸の明確化とランダムコーチング脱却
・連携システム:複数コーチでの役割分担と効果的な協働
・高度技術:多層的理解度把握と個別最適化コミュニケーション
・組織運営:選手自治能力育成とデータ活用による成長管理
6. 理解度チェック
以下の質問に答えられるか確認してみましょう。
・指導の軸を作る3ステップを実践できますか?
・複数コーチでの明確な役割分担ができますか?
・選手の心に響く5つのコミュニケーション技術を使えますか?
・選手の発達段階に応じた高度なアプローチができますか?
・保護者との効果的なコミュニケーションができますか?
・チーム全体の成長を促すシステムを構築できますか?
すべて答えられれば、コーチングの上級レベルに到達しています。(たぶん…)
組織的で体系的なコーチングは、個人の指導技術の集大成です。
長期的な視点を持って、チーム全体の持続的な成長を目指してください!
7. 学習ステップ
推奨学習順序
・現在のレベル:基本概念の理解
・次のレベル:基本的なコーチング技術の習得
・中級レベル:選手の心理と動機づけの理解
・上級レベル:チーム運営とシステム化(←今ここ)
このレベルまで到達したら、さらに専門性を深めるために、特定の分野(戦術指導、フィジカルコーチング、メンタルコーチングなど)の専門的な学習に進むことをおすすめします。
また、指導者としての社会的責任や地域貢献についても考えを深めていきましょう。
継続的な成長のために
次に取り組むべき分野
・専門分野の深化学習
・指導者ライセンスの上位資格取得
・地域のサッカー発展への貢献
・後進指導者の育成
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📙 [ジュニアサッカー【中級者】指導者向け:コーチングの実践ガイド]
選手の心理と動機づけをもう一度確認したい方はこちら。
📙 [ジュニアサッカー【初級者】指導者向け:コーチングの基礎実践ガイド]
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📗 [ジュニアサッカー【超初級者】指導者向け:コーチングの基礎理解ガイド]
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