こんにちは、講師のカズです。
サッカーの指導現場に立っていると、「試合で出た課題を、次の練習で改善しよう」と計画することは、ごく自然な流れです。
しかし、そのはずなのに、いざ練習が始まると…
・あれもこれも気になって、結局いろんなことを指摘してしまう
・練習のテーマがブレてしまい、選手を混乱させている気がする
・終わってみると、何が目的の練習だったか分からなくなっている
このような悩みを抱える指導者の方は、少なくないのではないでしょうか。
僕自身も若い頃は、この罠にどっぷりハマっていました。
頭では分かっているのに、現場に立つとつい多くのことを指摘してしまう。
その繰り返しでした。
この記事では、そんな「ランダムコーチング」に陥ってしまう根本的な原因と、そこから抜け出すための具体的な3つのステップを、僕自身の経験を交えながら詳しく解説していきます。
この記事を読めば、日々の指導に一本の「軸」が通り、自信を持って選手と向き合えるようになるはずです。
ぜひ最後までご覧ください。
動画で解説
1. そもそも「ランダムコーチング」とは?

① 指導の軸がブレてしまう現象
本題に入る前に、僕が考える「ランダムコーチング」がどのような状態か、少し整理しておきたいと思います。
これは、練習のテーマや目的から外れて、その場で目についたミスを次から次へと言葉にしてしまう指導のことです。
例えば、「今日のテーマは守備のカバーリングだ」と決めて練習を始めたのに、選手のパスミスが気になって「もっとパスは丁寧に!」と声をかけ、ドリブルのミスを見ては「ボールタッチが悪い!」と指摘する。
気づけば、練習の本来の目的だったカバーリングにはほとんど触れられず、指導者自身も、善意からよかれと思ってアドバイスしているつもりでも、一貫性がなく、その場しのぎの指摘になってしまっている状態です。
② なぜ選手は混乱してしまうのか
ランダムコーチングの最大の問題点は、選手が「結局、今日は何を意識すればいいんだろう?」と混乱してしまうことです。
指導者が次から次へと違うことを指摘するため、選手はどのプレーを改善すれば評価されるのか、何が今日の練習のゴールなのかが分からなくなります。
結果として、選手の思考は停止し、ただコーチの指示を待つだけになったり、あるいは何を言われても響かない状態になったりしてしまいます。
2. なぜ指導はブレてしまうのか?2つの罠

では、なぜ正しいアプローチをしようとしているはずなのに、指導がブレてしまうのか。
僕の経験上、その原因は大きく2つの「罠」があると考えています。
① 罠1:目についたミスを「全部」拾ってしまうから
ジュニア年代のサッカーの試合を見ていると、当然ながら「できないこと」や「ミス」だらけです。
パスがずれる、トラップが乱れる、周りが見えていない、ポジションが悪い…挙げればキリがありません。
指導者として真面目で熱心な人ほど、「あれも直してあげたい」「これも教えてあげたい」と、目についたミスを全部拾おうとしてしまいます。
僕も若い頃はまさにそうでした。
試合を見返しては、改善点をノートに20個も30個も書き出して、「よし、これを全部練習でやろう!」と思ってしまう。
でも、そんなことはできません。
結果として、練習が始まると、その膨大な課題リストが頭をよぎり、「あ、今のパスミスも気になる」「さっきのポジショニングも…」と、次から次へと指摘したくなってしまうのです。
② 罠2:課題の「優先順位」がつけられないから
たくさんの課題が見つかったとして、次にぶつかるのが「じゃあ、何から手をつけるべきか?」という優先順位の問題です。
クロスが上がらないのも、ポゼッションができないのも、全部が重要な課題に見えてしまう。
正直なところ、この優先順位付けは、指導経験がものを言う部分が大きいです。
僕も30年近く指導を続けてきて、ようやく「この年代なら、まずここからだな」「このチームの今のレベルなら、この課題は後回しでいいな」という感覚が持てるようになってきました。
経験が浅いうちは、この判断が難しくて当然です。
その結果、「一番印象に残ったミス」や「一番分かりやすい課題」に飛びついてしまい、練習の全体像を見失ってしまう。
これも、ランダムコーチングに陥る大きな原因です。
3. ランダムコーチングから抜け出すための具体的な3ステップ

では、どうすればこの負のスパイラルから抜け出せるのでしょうか。
僕が意識している具体的な3つのステップをご紹介します。
① ステップ1:「課題を捨てる」勇気を持つ
ランダムコーチングから抜け出すために最も重要なことは、「捨てる」勇気を持つことです。
見つかった20個の課題のうち、今週の練習で取り組むのはたったの2つか3つに絞ります。
残りの17個は、思い切って捨ててください。
もちろん、完全に忘れるわけではありません。来週、来月、あるいは3ヶ月後に取り組む課題としてストックしておけばいいです。
指導者は、選手にあれこれ与える「足し算」の思考に陥りがちですが、本当に選手の成長を促すのは、課題を研ぎ澄ませる「引き算」の思考です。
「今、このチームにとって本当に必要なことは何か?」
この問いを自分に投げかけ、課題を絞り込む作業こそが、一貫性のある指導の第一歩になります。
② ステップ2:試合分析を「ざっくり」から「具体的」へ
課題を絞るためには、試合分析の解像度を上げる必要があります。
と言っても、難しく考える必要はありません。
まずは、「なんか、全体的にバタバタしてるな」というざっくりとした抽象的な印象からで大丈夫です。
そこから、「なぜ?」を繰り返して掘り下げていきます。
「なぜバタバタしてる?」
→ プレッシャーを感じて、すぐにボールを離してしまうから。縦に急ぎすぎている。
「じゃあ、どうすれば改善できる?」
→ 例えば、サイドバックにボールが入った時に、無理に縦に行かずに一度センターバックに下げて、逆サイドに展開するプレーができれば、落ち着けるかも。
このように、「ざっくりとした現象」を「具体的なプレー」にまで落とし込むことで、練習でフォーカスすべきポイントが明確になります。
「サイドチェンジの練習」ではなく、「サイドで縦が詰まった時に、CBを使って逆サイドへ展開する練習」というようにテーマを具体化できれば、コーチングのポイントも自然と絞られてきます。
③ ステップ3:試合中に「今すぐ改善できないこと」は言わない
僕が若い頃に犯した最大の過ちの一つが、練習でやっていないことを試合中に要求してしまうことでした。
例えば、僕自身のサッカーの経験から「相手のラインが高いから、2列目の選手が裏へ飛び出せ!」とハーフタイムに指示したことがあります。
選手たちは「はい!」と返事はするものの、後半、そんなプレーは一度も出ませんでした。
当然です。
そんな練習、一度もしたことがないのですからね。
④ コーチングの本来の目的は?
コーチングの本来の目的は、選手のプレーにポジティブな変化を起こすことです。
練習でやっていない複雑な戦術や、身についていない技術を試合中に指摘しても、選手を混乱させ、パフォーマンスを下げるだけです。
それはもはや、選手の成長のためのコーチングではなく、コーチの自己満足でしかありません。
試合中に改善できること(例:GKのポジション、声かけの意識)と、練習が必要なこと(例:バックステップからのコントロール、コンビネーションでの崩し)を、指導者自身が冷静に切り分ける。
この視点を持つだけで、試合中の声かけはもっと的確で、選手に響くものになるはずです。
まとめ
今回は、「試合からの逆算」という正しいアプローチをしているにも関わらず、なぜかランダムコーチングに陥ってしまう指導者の悩みに答える形で、その原因と解決策を解説しました。
最後に、この記事のポイントをまとめておきます。
ランダムコーチングの正体
練習の目的から外れ、目についたミスをその場しのぎで指摘してしまう指導のこと。
原因は2つ
「課題の拾いすぎ」と「優先順位の欠如」にあります。
解決策①「捨てる勇気」
20個の課題より、絞り込んだ2つの課題に集中しましょう。
解決策②「分析の具体化」
「なぜ?」を繰り返し、ざっくりとした印象を具体的なプレーに落とし込みましょう。
解決策③「試合で言わない」
練習でやっていないことは試合で要求しない。これが鉄則です。
僕もそうでしたが、指導経験が浅い頃は、どうしても多くのことが気になり、焦ってしまうものです。
しかし、大切なのは、あれもこれもと手を出すことではなく、一つの課題にじっくりと向き合い、選手と共に改善していくプロセスです。
その積み重ねが、やがて指導者としてのブレのない「軸」を作ってくれます。
ぜひ、みなさんの指導現場でも実践してみてください!