こんにちは、講師のカズです。
サッカーの育成年代において、状況判断の大切さや選択肢を増やすことの重要性はいろんなところで聞きますが、その具体的な指導方法についてはあまり語られていません。
・選択肢をどうやって増やしたら良いのか?
・状況判断は選手に自由にやらせる?
・選択肢と状況判断ってどんな関係があるかわからない
このような疑問に答える形で状況判断や選択肢についての本質、ジュニア年代のサッカーコーチとしての具体的な実践方法をテーマに解説します。
動画で解説
1.結論:勝手に状況判断は良くならない
最初に結論から言うと、
「サッカーにおいて選手は勝手にベストな状況判断を下せるようにはならない。よい判断とは状況に応じた最適なプレーを選ぶことで、その選択肢とはコーチが教えるもの」
と考えています。
僕自身は過去には「どうやったら選手がよい判断を下せるようになるか?」とか「選択肢を増やしたい」と日々悩んでいましたが、25年の指導経験とバルセロナのコーチ留学後に出した結論がこれです。
そもそもサッカーにおいて「状況判断」とは「ベストな判断を下す」という意味で使われますが、そうするためには「プレーを選択」する必要があります。
つまり選手は「自分が持っている選択肢」の中から1つを選ぶのですが、この「いくつかの選択肢」や「決定される選択肢」とは敵の状態や自チームのプレーモデルと関係しています。
イメージしてほしいのですが、普遍的に考えた時に「サイドバックにパスが出た時に選べる選択肢」はどれくらいあるでしょうか?
基本的には多くの選択肢があります。
『コントロールで前進、足元にコントロール、前方へドリブルする、カットインする、FWにパス、MFにパス、DFに下げる、ダイレクトでサイドを変える、前方へ大きく蹴る、外に蹴り出す、スルーする…』
判断の良し悪しは別として普遍的な「選択肢」はとても多いものになります。
ではこの選択肢の中から選手が選んだものが「ベストな判断か?」と言うと、そこにはプレーの文脈、つまり「状況に対しての」という別の要素が入ってきます。
この「状況による判断」の「状況」はサッカーの原理原則やプレーモデル(チームとしての狙い)などと深く関係しています。
では育成年代、特にジュニア年代の選手は自分で自らサッカーの原理原則を勝手に理解し、自然と選択肢を増やしたりプレーモデルの沿ったベストな判断がコーチからのアプローチなしに勝手に実行できるようになるのでしょうか?
もし「コーチが何も言わなくても勝手に育つ」という考えならこの記事を読む必要はありません。
もしかしたらそういう考えもあるかもしれませんが、その場合選手の成長は著しく遅いものになると考えられます。
私の考えとしては「コーチのアプローチがないと戦術的な状況判断の向上にはつながらず、速度はとてつもなく遅くなる」というものです。
2.選択肢と状況判断の関係
では選択肢と状況判断とはどのような関係になっているのでしょうか?
上の図をご覧ください。
左側の「PAD+E」というのはスペイン語の頭文字をとったもので、PADは認知・分析・判断で選手の頭の中で起こる事象、Eは実行で実際のアクション、サッカーにおける1つのプレーはこの過程を経て行われます。
この一連の流れが状況判断で、状況を把握し判断するという一連のプロセスです。
そしてこの中の『分析』にあたる部分は、その前のP(認知)である「状況の把握」と選手が持っている「戦術メモリー(戦術の知識)」や「プレーモデル 」の影響を受けて『選択肢』が浮上します。
その中から1つを選んで決定し、実際に目に見えるアクションを起こすわけです。
ではこの『選択肢』ですが、選手に何の「戦術的知識」も与えず、チーム全体のプレーの方向性を示す「プレーモデル 」がない場合、選手にはどのような判断が生まれるでしょうか?
もちろん何らかの判断は生まれますが、それがチームとして効果的なものか、状況に応じたものかのジャッジはプレーの結果、チーム、もしくは監督・コーチが評価します。
その後のプレーにつながる、チームにとって効果的な判断を下すには選択肢から1つを選ぶわけですが、その選択肢はそのような影響を受けることを考えると、指導者側の働きかけによって『どのような選択肢が浮上するか』が大きく変わってきます。
3.選手自身の判断を尊重するという矛盾
これは各コーチの指導の方針や方法論とも関係しますが、日本で言われている一般的なケースを例に考えてみたいと思います。
例えば「サッカーの試合の中で選手の判断を尊重する」と言った場合、実際の指導現場ではどのように尊重するかという問題があります。
わかりやすい例でいうとよくあるコーチングとして良くある例です。
・周りを見てしっかり判断しよう!
・他に選択肢はなかったか?
・今どういう状況?どうすればいいと思う?
このような場合に、事前にトレーニングされていて「その簡単な声かけによって選手が気付く」場合だと問題ありません。
なぜなら「選手はその瞬間にどんな選択肢があり、どんなプレーがベストだったかを知っており、たまたま間違ったりミスをした」
このようなケースだとコーチングの裏には「この状況だったらどうするんだった?思い出して!」という意味が込められているからです。
しかし、同じフレーズでも「選手に戦術的な知識やプレーモデルについての選択肢の出し方」にアプローチ(トレーニング)していないと、何の意味もないコーチングになります。
コーチングしているが選手はそれによって何の反応も示さない。もしくは何の解決方法も見出せない。
これは至極当然の帰結で「選手は自ら戦術を創造することはほとんどできない」からです。
ジュニア年代のコーチの皆さんはわかると思いますが、小学生年代なら余計にできません。
少し極端な言い方ですが、そのようなコーチングでも「選手の判断を尊重する」なら、どんな判断をしても問題ないということになります。
ゴール前フリーでシュートチャンスなのに、後ろに下げて攻撃をやり直しても「それは選手の判断」。
そしてそれを尊重する?
多くの方がこのようなケースの場合「自分でシュートしろ!」と声をかけるはずです。
選手が自ら判断したにも関わらず。
つまり実際はそうではなく、暗に「コーチに求められる判断を自ら見つけろ」と促しているケースがほとんどです。
正直これはジュニア年代の選手にとってはかなり難しいものになります。
4.選択肢が増えるプロセス:無意識のレベルが必要
サッカーというスポーツにおいては無数にある選択肢ですが、いきなり10個の選択肢から1つを選ぶのは至難の業です。
私の考えとしては以下の通りです。
1.最初に二つの選択肢を与える
2.そのうちの一つが無意識にできるようになったらもう1つ与える
3.二つのことが無意識でできるようになったらもう1つ与える
このように自分で判断してできることは「コーチからの声かけがなくても」つまり「意識させられなくても自分のスキルとなっている状態」ですので、選手に戦術的負荷はかかりません。
負荷がかからないということは無意識ですので考える必要がありませんよね。
しかし、選手が持っていない選択肢を与えると「それが負荷」になってしまう。
そうするとインテンシティが下がるのと、考える時間が長くなりミスを誘発します。
当然新たな選択肢をいきなり3つ与えるとそれだけで急激に戦術的負荷が上がり、もはやプレーすることができなくなります。
ですので、選手のプレー強度がなるべく下がらないようにしながら、少しの負荷を与えつつ成長を促します。
別の言い方をすれば「少し頑張ったら達成できる」
これはテクニックに限らず戦術面もトレーニングでも同じです。
5.指導現場での選択肢の増やし方(具体例)
では僕が実際に行なっている選択肢の増やし方を紹介します。
※もちろん『この方法が絶対に正しい』わけではないので、自分と選手に合った方法を自分なりに模索しましょう。
例えばセンターバックの選択肢の増やし方。
1.パスの第一の優先順位はサイドバックへのパス
2.最初は①と②の選択肢を与え③のFWヘのロングの精度は重視しない
3.①と②をしっかりと認知できるようになったら②を優先しても良い
4.①②が無意識で見れるようになったら④のサイドチェンジの選択肢を与える
5.サイドチェンジができるようになったらリスクが高い⑤へもチャレンジさせる
こんな感じで「選手が見れるもの(認知)や選べる選択肢」を徐々に増やしていきます。
そしてこのパスの優先順位は私のチームのプレーモデルとも関係していますし、他の選手が起こすアクションもサッカーの原理原則やプレーモデルと関係しています。
この例はわかりやすく書いてますが、実際はドリブルやその他のアクションもあり、選手のレベルによってはすでにできることもあるので、その他の要素も絡めながら選手にとって「少し難しいレベルのもの」を提示しています。
また、選択肢を与える順番も選手の特徴によって違いますので、その辺は自チームのレベルや選手の特徴を考慮して段階を踏ませましょう。
6.まとめ
今回は状況判断とは何か?
そして選択肢との関係性や選択肢の増やし方について解説しました。
もちろん僕の考えが全て正しいとは思いませんが、実際のジュニア年代の指導現場に立つコーチの方々の参考になればと思います。
繰り返しになりますが、『選手が自ら戦術的なことを創造』したり『勝手に知識が増えること』はありません。
また、選択肢として浮上するものは「プレーモデルとも関係」しています。
ジュニア年代のコーチの役割は、「選手にサッカーの原理原則」を教えながら「サッカーを理解させること」や「プレーモデルをしっかりと提示」して、選手の成長を促す必要があります。