私たち指導者は、選手のプレーの良し悪しを評価する立場にいるのですが、あるミスが起きた時についつい「テクニックの問題」を指摘してしまうことはよくあります。
しかし、そのミスは本当にテクニックの問題でしょうか?
またプレーにおける「状況判断」とは何か。
なぜ選手が判断ミスをしてしまうのか。
その原因を探る方法として、今回はサッカー選手がプレーする時のプロセス「PAD+E」という概念について解説します。
動画で解説
1.PAD+Eという考え方
PAD+Eとはスペイン語の頭文字をとったもので「サッカーにおけるプレーの一連のプロセス」を表現している概念です。
「+」と表現されていますが
「PAD」までは選手の頭の中で起きている事象
「E」の部分は私たちが実際に目に見える現象です。
では詳しく見て行きましょう。
① P(Percepción)認知
認知とは自分の周りや状況を認識することです。
「今どのような状況か。敵はどこにいて味方はどこか。スペースはあるか。」
といった状況を把握するための情報を主に視覚から集めます。
サッカーにおいて、
「顔を上げて周りを見る」「ルックアップ」
というアクションは状況を認知するために行うアクションになります。
「認知する」というアクションはボールを持ちながら、またはボールを持っていない時に周囲を見ることで「今起きている状況を正しく把握しよとする行為」です。
なので攻撃のフェーズだけでなく守備の時にも選手は行っています。
一般的にサッカーにおいて視野が広いという場合、周囲の状況がよく見えていることやボールから遠くの状況まで多くのものが見えていることを意味してます。
>>【視野の広さはボール扱いと身体の向きで決まる】少年サッカーの基礎
② A(Análisis )分析
「認知」の部分で集めた情報を分析する段階。
今現在の状況ではどのようなプレーが有効かを分析し、いくつかの選択肢を持ちます。
この時「的確な分析から選択肢を浮上させる」ためには「サッカーの知識や過去の経験」といった戦術メモリー(戦術の記憶)やチームのプレーモデルが影響します。
注意点ですが、サッカーの知識や経験がない選手の頭の中に「勝手に合理的な選択肢が浮上する」というのはほとんどないケースだと思います。
サッカーの原理原則やプレーの優先順位を理解していること、そして上述した知識やプレーモデルが「選択肢の浮上」に大きく関係します。
③ D( Desición) 決定
分析を経た後にはその中に浮上している「選択肢」から1つを選ぶ作業がこのフェーズにあたります。
過去における成功体験や経験値が多いと、この決断の部分は速くなります。
反対に言うと「浮上した選択肢から有効なものを選べず迷ってしまう」と決断が遅れ、プレースピードは下がります。
④ E(Ejección) 実行
そして先のPADという選手の頭の中で起こっているフェーズを経て最後の実行の部分に移行します。
この「実行」の部分は実際にパスを出したり何らかのアクションを起こすフェーズで、外にいる指導者も目に見える現象となります。
サッカーにおけるテクニック(技術)と深く関係しています。
選手がボールを持っている持っていないに関わらず、何らかのアクションを起こす時にはこの一連の『PAD+E』というプロセスを経ています。
2.選手のミスはどこで起きたかを見極める

以上のように「選手のプレーのプロセス」には大きく4つのフェーズがあることが分かりました。
では、それを私たち指導者がどのように生かすかというと、それは選手のミスが「どのフェーズで起きているか」を見極める際に有効な手段となります。
この『PAD+E』という概念を理解すると選手がミスをした時に、それが単なるテクニックだけの問題ではないことが分かります。
パスをする前に状況を理解できていたのか、そもそも状況に適した解決策を知っているのか、そもそも状況を把握できていなかったのか。
認知のミスなのか、分析のミスなのか、それとも決断でミスをしたのか。
目には見えない「選手の頭の中」までを観察することにより、コーチから選手へのコーチングは質が変化します。
もちろん単純なテクニックのミスというケースもありますが、コーチはミスの原因をしっかりと把握する必要があります。
そうしないと「コーチの選手に対する指摘」が的外れなものになり、選手のプレーは改善されません。
そのためには選手のプレーをよく観察し、ボール以外の選手も把握していることがポイントです。
サッカーにおける「状況判断」や「プレーの選択肢」についてもっと詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。