こんにちは、講師のカズです。
育成年代の中で、選手が自ら判断してプレーすることを重要視する意見を様々なところで聞きますが、僕もこの意見に賛成です。
しかし、僕ら指導者が気をつけなくてはならないポイントは、選手は勝手に戦術的なスキルを獲得しベストな状況判断を下せるようにはならないということ。
この記事では、選手が戦術的なスキルを獲得していくプロセスとともに、コーチがどのようなアプローチを行うかについて解説します。
動画で解説
1. 選手が戦術的スキルを獲得する4つのステップ

選手が戦術的スキルを獲得し、自ら実践できるようになるまでのプロセスを解説します。
ざっくり言うと以下の通りです。
1.知識を得る
2.意識させる
3.思い出させる
4.無意識のレベルに到達
1つずつ詳しく見てみましょう。
① 知識がない段階
最初のステップは選手に知識を与えることです。
年齢によってすでに獲得しているスキルは異なりますが、多くの場合選手には知識がありません。
それを知らないという段階。
もちろん選手が自分で調べて学んでいるケースもありますが、特にジュニア年代ではそのようなケースはほとんど見られません。
例えばカバーリングという知識を与えたとします。
選手が「なるほど守備の時にはそういうことを気をつけないといけないのか」と理解すれば最初の段階をクリアします。
ここでのコーチの役割は知識を与えるとともに、なぜそれが必要なのか、それを行うとどのようなメリットがあるのかを分かりやすく選手に提示することです。
② 意識しないとプレーできない段階
知識を得ただけではそれはスキルとなりません。
次のステップは意識しながら実践することです。
しかし選手はまだスキルを獲得していない段階なので、プレー中にそれを忘れてしまったり、上手くいかないケースが多く見られます。
ここでコーチが行うアプローチは常に指摘を送り選手に意識させることです。
少しオーバーコーチングになることもありますが、私の考えでは繰り返し要求することと、ポイントを絞って意識させることで考える要素を限定します。
もちろんそれ以外のプレーにはある程度自由を与えます。
選手がプレー中に意識することは1つか2つにしておかないと、あれもこれもになってしまうと選手のパフォーマンスが下がります。
まだ習慣化されていないので選手も苦しむ段階です。
③ 質問で思い出させる(コーチングの量を減らす)
段々と習慣化されてきたと判断したらコーチングの量を減らします。
時折選手への指示を送らずに自分でできるかどうかを見極めます。
まだコーチの指示がないと上手くいかないのか、最初の段階に比べてどれくらいコーチの指示がなくてもできるようになっているのか。
有効なのは「選手自ら思い出す」ためのコーチング、つまり質問です。
選手が忘れているなと感じた時には「こういう状況の時は何をするのだった?」と質問することで、選手自身に気付かせます。
そうするとコーチの指示なしに再び選手は意識して取り組みます。
④ 無意識レベル
最後のステップは、そのスキルが選手が無意識に行えるかどうか。
この段階では選手はコーチに言われなくても自然とスキルを発揮します。
つまり完全に習慣化されて選手自身が意識しなくても、考えなくても無意識でプレーできるようになるので、コーチは指示を送る必要はありません。
以上が選手がスキルを獲得するプロセスと、コーチがやるべきアプローチです。
2. 習慣化されたと思ってもできなくなることもある

① 時間が経つと忘れてしまう
僕の経験から言うと、育成年代の選手はある程度スキルが習慣化されてもしばらく時間が経つと忘れてしまうこともあります。
一度できるようになった後に別のテーマに取り組んでいると、以前はできたいたことができなくなるという現象がよく起きます。
スキルを獲得したように見えても、まだまだ習慣化されておらず忘れてしまうというのは選手の問題ではなく、そういうものです。
② スキルは簡単には積み上がらない
余談ですが育成の難しさはカンタンにスキルが積み上がらないというところですね。
何かを与えると何かが失われてしまったり、順を追って積み上げようとしてもそうはいきません。
新しいことを足して行って積み上げるというよりは、大きなサイクルを描きながら少しずつレベルアップしていくイメージです。
③ 質問して思い出すように声かけする
一度できるようになったことができなくなった時に有効なのが質問で思い出させたり再度トレーニングを行うことです。
質問を通じて選手が思い出すような声かけで促し、再度習慣化させます。
2,3ヶ月という短いスパンでの習慣化だけではその時はできるようになっても、どうしてもまた上手くできない時が来ます。
しかしその時にはほとんど時間はかかりません。気づかせるだけですぐにまたできるようになります。
もし、上手くいかない場合は4つのプロセスのどの段階に選手がいるかを見極め、再度取り組みます。
3. まとめ
・戦術的スキルは「知識→意識→思い出し→無意識」の4段階で習得される
・コーチの役割は各段階に応じてアプローチを変えること
・質問や観察を通して、選手が自ら思い出し再習得できるように促す
・一度できても忘れるのが育成年代。繰り返しが必要
・成長は直線ではなく、螺旋的に積み上がっていくと考える
この記事では、選手が戦術的スキルを身につけていくプロセスと、それを支えるコーチの関わり方について解説しました。
ジュニア年代の育成では「覚えさせる」ことよりも、「気づかせ、習慣化させる」プロセスこそが最も重要です。
ぜひ、指導現場でこの4ステップを意識しながら、選手たちの成長を支えてみてください。