こんにちは、講師のカズです。
僕たちサッカーコーチの一番の悩みであり、同時に最大のやりがいは、やはり「どうすれば選手をレベルアップさせられるか」ということだと思います。
上手い選手をもっと高いステージへ導くにはどうしたらいいか、なかなか試合に出られない選手をどうやって引き上げてあげられるか。
選手のレベルや年齢、モチベーションによってアプローチは無限に変わりますが、その根底にある「本質」を見失うと、指導が小手先のテクニックに陥ってしまいがちです。
しかし、指導現場ではこんな風に疑問を感じることもあります。
・選手のレベルに差がありすぎて、どんな課題を与えればいいか分からない
・「頑張ってるな」と褒めているつもりでも、選手のモチベーションが上がらない
・自分の指導が本当に選手の成長につながっているのか、時々自信がなくなる
この記事では、僕が30年以上の指導経験でたどり着いた「選手を伸ばすための本質」について、具体的な4つのステップと考え方を、さらに詳しく深掘りしながら解説していきます。
この記事をじっくり読んでいただければ、選手のレベルや状況に関わらず、あなたの指導の「軸」がブレなくなり、明日から自信を持って選手と向き合えるようになるはずです。
ぜひ、最後までご覧ください。
1. 指導者の大前提:選手の「上手い・上手くない」は関係ない

① 目の前の選手を「ワンランク上」に引き上げるのが仕事
まず僕が指導現場に立つ上で、最も大切にしている大前提があります。
それは、「選手が上手いからどう」「上手くないからどう」ということは一切関係ない、というスタンスです。
もちろん、試合に勝つためには選手の能力を見極め、戦略的に配置を考える必要はあります。
しかし、ひとたび指導者として選手の前に立ったとき、僕らの本質的な仕事はただ一つです。
それは、目の前にいる選手一人ひとりを、今のレベルから「ワンランク上」に引き上げてあげること。
いきなり3ランクも4ランクも上に引き上げるのは不可能です。
それは指導者のエゴかもしれません。
どんな選手であれ、今いる場所からほんの少しでも成長できるように導いていくこと。
これこそが、僕らの役割の本質だと考えています。
② 全選手に共通する「成長のプロセス」を理解する
では、選手をワンランク上に引き上げるために、僕らは何を理解しておくべきでしょうか。
ここで重要になるのが、人が新しいスキルを獲得していく際の「成長のプロセス」です。
これはサッカーに限らず、僕らが何か新しいことを学ぶときにも共通する、普遍的なステップだと考えています。
このプロセスを理解すれば、なぜあの子が今つまずいているのか、どうすれば次のステップに進めるのかが見えてきます。
2. 人がスキルを獲得する「4つの成長プロセス」

僕がいつも選手の成長段階を見極める際に意識している、4つのプロセス(段階)があります。
①知らないし、できない
②知っているけど、できない
③意識すればできる
④無意識でできる
一つずつ解説します。
①「知らないし、できない」段階
これが全てのスタート地点です。
例えば、サッカーを始めたばかりの子が「インサイドキック」という言葉も知らなければ、当然うまく蹴ることもできない。
これが最初の「無知」の状態です。
②「知っているけど、できない」段階
次に、知識としては理解したけれど、まだ身体がついてこない段階です。
子どもに靴ひもの結び方を教え、「こうやって輪っかを作って…」と頭では分かっていても、指がうまく動かせない状態。
これが「意識先行」の段階です。
サッカーで言えば、「パスを出す前に周りを見ろ」と言われて、見ることは意識できても、いざボールが来ると慌ててしまって見れない、という状態がこれにあたります。
③「意識すればできる」段階
3つ目は、プレー中に集中して意識すれば、なんとか実行できる段階です。
子どもが「えーっと、ここに輪っかを作って、これを通して…」と一つひとつ動作を確認しながらであれば、蝶々結びができる。
サッカーのプレーで言えば、「パスを出す前に周りを見る」ということを強く意識すればできるけれど、そのぶん判断やパスのタイミングが少し遅れてしまう。
これが「意識と実行の格闘」の段階です。
試合では、このコンマ数秒の遅れが命取りになることもあります。
④「無意識でできる」段階
そして最後の4つ目が、何も考えなくても自然に、そして高い精度でできる「無意識」のレベル。
いわゆる習慣化された状態です。
僕らが普段、誰かと話しながらでも自然に靴ひもを結べるのと同じです。
サッカーにおいて、特にプレッシャーのかかるボールサイドの局面では、この無意識レベルでプレーできるスキルの数が、選手のパフォーマンスを大きく左右します。
判断に脳のリソースを割くために、技術は無意識化されている必要があります。


3. 選手を伸ばすための具体的なアプローチ

この4つの成長プロセスを理解すると、選手一人ひとりに対して「今、何をすべきか」が明確に見えてきます。
① 最適な「課題設定」のコツ
選手を成長の軌道に乗せるための課題は、「少し頑張れば達成できる」レベルに設定することが理想です。
これは心理学でいう「フロー状態」にも繋がる考え方で、選手の挑戦意欲を最も引き出せる難易度です。
リフティングが3回しかできない子に「明日までに100回やろう」と言っても、それは「無理な課題」であり、やる気を削ぐだけです。
それよりも「まずはワンバウンドでいいから5回続けてみようか」という課題の方が、選手は「それならできるかも」と前向きに取り組めます。
この「少し頑張れば」という課題設定のさじ加減こそ、指導者の観察眼が問われる部分です。
②「結果」ではなく「プロセス」を評価する
課題を設定したら、次に重要なのが「何を評価するか」です。
僕が指導者として最も大切にしていることの一つが、できた・できないという「結果」ではなく、そこに至るまでの「プロセス(過程)」を評価することです。
例えば、A君もB君も「リフティング15回」という同じ課題に取り組んだとします。
A君は見事に15回を達成した。一方、B君は惜しくも12回で終わってしまった。
ここで結果だけを評価すると、「A君はOK、B君はダメ」となり、B君の自己肯定感は下がってしまいます。
そうではなく、「15回という目標に向かって、二人とも本当に集中して努力したね。その取り組む姿勢が素晴らしかったよ」と、プロセスそのものを承認してあげるのです。
そうすれば、結果に差はあっても、二人の頑張りの価値は「同じように尊い」と伝えることができます。
これが選手の心を育て、失敗を恐れずに次の挑戦へと向かう意欲の源泉になります。
③ 選手の「内発的動機づけ」をどう促すか
とはいえ、「課題に取り組まない」「練習がいい加減になってしまう」という選手もいるかもしれません。
その問題の根っこにあるのは、多くの場合「内発的動機づけ」、つまり「やらされている」のではなく「自分からやりたい!」という気持ちの不足です。
この内発的動機づけをどう引き出すか、これもまた指導者の腕の見せ所です。
なぜこの練習が必要なのか、これを乗り越えたらどんな素晴らしい未来が待っているのか。
あるいは、練習の中にゲーム性を取り入れて競争心を刺激したり、選手自身に目標を決めさせたりする。
選手一人ひとりの心のスイッチがどこにあるのかを探り、火をつけてあげるような働きかけが求められます。
選手の「やる気」の根源である内発的動機づけは、育成年代の指導において最も大切なテーマの一つです。選手のモチベーション段階を見極め、内発的動機づけを促す具体的な方法については、以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。


4. それでも上手くいかない時に見直すべきこと

① 指導の土台は「信頼関係」にある
ここまで話してきた課題設定や評価、動機付け。
これらすべてがうまく機能するための、最も重要な土台があります。 それは、選手と指導者の間の「信頼関係」です。
選手が、
「このコーチは自分のことを見てくれている」
「このコーチの言うことなら信頼できる」
「このコーチについていけば、きっと上手くなれる」
と感じていなければ、どんなに優れた理論や練習メニューも選手の心には響きません。
もし、何を言っても選手に伝わらない、選手の心が離れていると感じるなら、一度立ち止まって、日々のコミュニケーションや選手への接し方など、関係性そのものを見直す必要があるかもしれません。

② 本質を捉えれば、指導はブレなくなる
今回お話しした「成長の4ステップ」や「プロセス評価」、「内発的動機づけ」といった考え方は、僕が考えるサッカー指導の「本質」です。
こうした物事の根本的な部分さえ押さえておけば、指導する選手の年代やレベル、チームの状況が変わっても、基本的なアプローチは変わりません。
あとは、その状況に応じた微調整で済むのです。
表面的なテクニックや流行りの練習法を追い求めるのではなく、こうした人間成長の普遍的な本質を深く理解することで、指導者としての揺るぎない「軸」が定まり、あなたの指導はもっと楽に、そして楽しくなるはずです。
まとめ
・指導者の仕事は、選手のレベルに関わらず「ワンランク上」に引き上げること
・人がスキルを獲得するには「知らない→知ってるけどできない→意識すればできる→無意識」の4つのプロセスがある。
・選手を伸ばすには「少し頑張れば達成できる」課題を設定することが重要
・「結果」ではなく、そこに至るまでの「プロセス」を評価することで、選手の意欲を引き出す
・これらの指導アプローチの土台には、選手との「信頼関係」が不可欠。
今回は、選手をどう伸ばしていくか、という本質的なテーマについて深掘りして解説しました。
個別具体的なテクニックも大切ですが、こうした指導の全体像や本質を理解することで、日々の指導に深みと一貫性が生まれるはずです。
皆さんの指導現場のヒントになれば嬉しいです!