こんにちは、講師のカズです。
少年サッカーの指導現場では、「1対1で負けるな!」という言葉をよく耳にしますが、それと同時に「数的優位」の重要性も語られます。
個の力とチームとしての戦術、どちらを優先し、どのように指導していけば良いのか、悩む指導者の方も多いのではないでしょうか。
僕自身も25年以上の指導経験の中で、常にこのバランスについて考え、様々なアプローチを試みてきました。
指導現場では以下のような疑問があるかと思います。
・「1対1で負けるな!」という声かけは、具体的に選手のどんな力を伸ばすために有効なのか?
・数的優位の考え方は、小学生年代の子どもたちにどのように伝えれば理解しやすく、実践に繋がりやすいのか?
・日々のトレーニングで、個人の技術向上とチーム戦術の習得を、どのようにバランス良く組み込んでいくべきか?
この記事では、これらの疑問に答える形で、ジュニアサッカーにおける「1対1の重要性」と「数的優位の考え方」、そしてそれらを選手たちにどう伝え、日々のトレーニングにどう落とし込んでいくべきか、僕なりの実践的なアプローチを解説します。
この記事を読めば、選手の「個の力」と「チームとしての賢さ」、その両方を引き出す指導のヒントが見つかるはずですので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 「1対1で負けるな!」の声かけが持つ多面的な意味

まず、「1対1で負けるな!」という声かけについて考えてみましょう。
僕自身、指導の中でこの言葉を使うことはあります。
しかし、それは単に目の前の勝負に勝つことだけを求めているわけではありません。
そこには、いくつかの育成的な意図が含まれています。
① 守備面での意図:チーム全体の守備力を高める
サッカーの守備において、ボールホルダーに対するファーストディフェンダーの対応は非常に重要です。
ここで「絶対に負けない」「簡単にやらせない」という強い気持ちで粘り強く対応することが、相手の攻撃の芽を摘み、チーム全体の守備を安定させることに繋がります。
プレッシングの練習をしていても、最初のボールホルダーへのアプローチが甘ければ、簡単にパスを通されたり、前進を許してしまったりします。
それでは、いくら組織的な守備を試みても機能しません。
だからこそ、「1対1では簡単にやられるな!」と意識付けをすることで、ファーストディフェンダーとしての責任感や球際の強さを意識させ、その結果としてカバーリングに入った選手がボールを奪いやすくなる、といったチームとしての守備効果を高める狙いがあります。
② 攻撃面での意図:プレーの選択肢を広げる
攻撃においても、「もっと1対1で仕掛けろ!」「勝負しろ!」と声をかけることがあります。
例えば、パスさばきは上手いけれど、なかなかドリブルで仕掛けることをしない選手がいたとします。
そのような選手は、相手からすると「パスコースさえ警戒しておけば怖くない選手」と見なされてしまうかもしれません。
そこで、あえて1対1の勝負を促すことで、ドリブルという選択肢を意識させます。
選手がドリブルで仕掛ける姿勢を見せることで、相手ディフェンダーが引きつけられ、結果的に周囲の味方へのパスコースが生まれることもあります。
これは、1対1の意識がチームの攻撃に多様性をもたらす一例です。
③ プレーエリアの拡大や自信の醸成
その他にも、消極的なプレーが目立つ選手や、プレーに関わる範囲が狭い選手(例えば、守備時に抜かれたらすぐに諦めてしまう、攻撃参加の距離が短いなど)に対して、「1対1で最後まで諦めるな!」「ボールを奪い返すまで追いかけろ!」と働きかけることで、プレーに関わる時間やスペースを広げるきっかけになることもあります。
また、自信なさげにプレーしている選手に対して、失敗を恐れずにチャレンジするよう背中を押し、その中で成功体験を積ませることで、自信を深めさせるという狙いもあります。
大切なのは、これらの声かけが「その選手の成長にとって、今どんな意味があるのか」「この声かけによって、どんなプレーを引き出したいのか」を指導者自身が明確にデザインしておくことです。
そして、選手のタイプや性格、その時の状況によって、言葉の選び方や伝え方を変えることも重要ですね。
2. 「数的優位」を小学生年代にどう伝えるか?
~パターン指導の罠と「自己組織化」~

次に、「数的優位」の考え方です。
これはサッカーにおいて非常に重要な戦術的要素ですが、小学生年代に「数的優位を作れ」と直接的に教えても、なかなか理解し、実践するのは難しいものです。

① 「数的優位を作れ」という指示の難しさ
指導者が戦術ボード上で「ここで数的優位ができているだろう」と説明しても、選手たちが実際のプレーの中でそれを「チャンス」として認識し、有効活用できるかは別問題です。
例えば、ビルドアップの際に「相手が2トップならボランチが最終ラインに降りて3対2の数的優位を作ろう」といったパターンを教えるとします。
確かに、相手がそのパターン通りに対応してくれれば有効かもしれません。
しかし、相手がこちらの動きに対応してプレスの掛け方を変えてきた場合、そのパターンはあっという間に通用しなくなります。
そうなると、また新しいパターンを教えなければならず、これでは選手が指示待ちになってしまい、自ら考えて判断する力が育ちません。
② 僕のアプローチ:「自己組織化」を促す
僕が指導する際は、特定のパターンを教え込むのではなく、選手たちが、自ら状況を判断し、最適なプレーを選択できるような「自己組織化」を促すことを大切にしています。
例えば、サイドで1対1の状況になっている選手がいれば、近くの選手に「もっと早く良いポジションを取ってサポートに入ろう!」「パス&ゴーで関わってごらん」と声をかけます。
その結果として、瞬間的に2対1の数的優位が生まれ、有利な状況で攻撃を展開できるようになる、といったイメージです。
選手たちには、「今、パスコースはあるか?」「どこに動けば味方がプレーしやすくなるか?」といった問いかけを通じて、プレーの原理原則に気づかせ、それを様々な状況で応用できる力を養うことを目指しています。


3. 1対1の強さと数的優位、どちらを優先すべきか?

結局のところ、「1対1の強さ」と「数的優位を作り活かすこと」は、どちらもサッカーにおいて不可欠な要素であり、どちらか一方を絶対的に優先するというものではありません。
選手の年齢やスキルレベル、チームの成熟度、そして試合の状況など、様々な「文脈」によって、そのバランスや重点の置き方は変わってきます。
例えば、サッカーを始めたばかりの低学年の選手にとっては、まずボールに親しみ、1対1の攻防の中で積極的にチャレンジする経験を積むことが重要でしょう。
中学年くらいになれば、1対1のスキルを磨きつつ、徐々に2人組、3人組といった小さなグループでの関わりの中で、数的優位の感覚を養っていくことが求められます。
そして高学年では、より戦術的な理解を深め、チームとしてどのように数的優位を作り出し、それをどう活かしてゴールを目指すのか、といった視点が必要になってきます。
重要なのは、1対1の局面での個の力と、数的優位を作り出すグループ・チームとしての動きは、互いに影響し合い、補い合う関係にあるということです。
1対1で簡単に負けてしまえば、いくら数的優位を作ろうとしても機能しませんし、逆に数的優位を作る意識がなければ、個の力だけに頼った単調な攻撃になりがちです。
4. 指導者は「現象の奥にある本質」を見抜く
僕たち指導者は、試合中に起こる一つひとつのプレーや結果(例えば「1対1で負けた」「数的優位を活かせなかった」)だけを捉えるのではなく、「なぜその現象が起きたのか」「その背景にはどんな課題があるのか」といった、現象の奥にある本質を見抜く視点を持つことが大切です。
そして、選手の成長段階やチームの状況を的確に把握し、今何を伝えるべきか、どんなトレーニングが必要なのかを判断し、実行していく。
その繰り返しの中で、選手も指導者も共に成長していくのだと思います。
まとめ
今回は、少年サッカーにおける「1対1で負けるな!」という声かけの意図と、「数的優位」の考え方、そしてそれらの指導法についてお話ししました。
・「1対1で負けるな!」という声かけには、守備での粘り強さ、攻撃での積極性、プレーエリアの拡大、自信の醸成など、多面的な育成意図を込めることができます。
・数的優位の指導は、抽象的な指示ではなく、具体的なプレー(サポート、スペースの活用など)を通じて、選手が体感的に理解できるようにアプローチすることが重要です。パターン指導ではなく「自己組織化」を促しましょう。
・1対1の強さと数的優位の理解は、どちらも重要であり、選手の成長段階やチームの状況に応じてバランス良く指導する必要があります。
・指導者は、目先の現象だけでなく、その奥にある本質を見抜き、選手の成長を長期的な視点でサポートしていくことが求められます。
サッカーの指導に唯一絶対の正解はありません。
大切なのは、常に学び続け、目の前の子どもたちのために何が最善かを考え、実践していくことだと僕は考えています。
この記事が、皆さんの指導の一助となれば幸いです。