こんにちは、講師のカズです。
ジュニア年代のサッカー指導では、選手の一つ一つのプレーを的確に捉え、適切なフィードバックをすることが大切です。
しかし、指導現場に立つと、以下のような問題も。
「何を見て、どう伝えれば選手の成長に繋がるのだろうか?」
「一生懸命教えているのに、なぜか選手に響かない…」
僕自身も、指導者としてのキャリアの浅い頃は、そんな悩みを抱えながら日々試行錯誤していました。
特に、目の前で起きた分かりやすいプレーだけに目を向け、その奥にある重要なポイントを見過ごしてしまっていたことが多くありました。
・よく聞く「現象」に注目するとは、具体的にどういうことで、どうすればそれを見抜けるようになるのか?
・練習や試合の中で、本当に注目すべき「本質的なポイント」は一体何なのか?
・なぜ、自分のコーチングが選手たちの心に深く届かないのだろう?
この記事では、僕が30年以上の指導経験、特に「起きた現象」だけでなく、見過ごされがちな「起きなかった(見えない)現象」にも目を向けることの重要性とその具体的な観察方法について、解説します。
この記事を読めば、あなたのコーチングの視点が変わり、質が格段に向上するはずです。
そして、これまで見えなかった選手の隠れた成長ポイントや、彼らの内なる声に気づけるようになるかもしれません
ぜひ、最後までじっくりとご覧いただき、明日からの指導のヒントにしていただければ幸いです。
1.コーチングで「現象」をどう捉えるか?

サッカーの指導において、「現象を捉える」という言葉はよく使われますが、その捉え方一つでコーチングの質は大きく変わってきます。
①「手ぶらで指導」の難しさとは?
練習や試合の指導で、その場でパッと現象を見て、瞬時に的確なアドバイスをする。
これは、指導者として理想的な姿の一つかもしれません。
しかし、これを実現するには、やはりある程度の経験値、つまり「引き出し」の多さが求められます。
例えば、ある選手がパスミスをしたとします。
経験豊富なコーチであれば、そのミスの原因として、技術的な問題(軸足の位置、インパクトの強さ、体の向きなど)だけでなく、判断の問題(パスコースの選択、タイミングなど)、あるいは認知の問題(相手や味方の位置を把握できていなかったなど)といった複数の可能性を瞬時に想起し、選手の状態や試合の流れを考慮して最適な声かけを選択できるかもしれません。
しかし、経験の浅いコーチの場合、一つの原因に囚われてしまったり、どの情報が重要なのか判断がつかなかったりすることがあります。
僕自身、現在は新しい練習メニューを試す時や、初めて指導する選手たちを見る体験会などでは、あえて最初の数分間は何も言わずに選手たちの動きをじっくりと観察します。
そこで「今、どんな現象が起きているのか」「選手たちは何を考えてプレーしているのか」といったことを見極め、それから具体的な指導に入るようにしています。
これは、長年の指導で培ってきた「こういう状況なら、おそらくこういうプレーが出るだろう」「この年齢の子どもたちなら、こんな課題を抱えていることが多い」といった、いわば“予測データベース”のようなものが自分の中にあるからできることです。
しかし、指導経験が浅い頃は、この「引き出し」が圧倒的に少ないため、その場で的確な現象を捉え、適切なコーチングを行うのは非常に難しいと感じることがあります。
何が問題で、どこから手をつければ良いのか分からず、結果として場当たり的な声かけになってしまったり、あるいは何も言えずに時間だけが過ぎてしまったり…そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
この「手ぶらで指導に臨む」ことの難しさ、そしてそれがもたらす指導の一貫性のなさや効果の薄さを認識することが、まず第一歩だと僕は考えています。
②事前準備の重要性:予想される現象とキーファクター
では、経験が浅いコーチが、質の高いコーチングを行うためにはどうすれば良いのでしょうか?
僕が最も重要だと考えているのは、やはり事前の準備です。
その日のトレーニングテーマや練習メニューが決まったら、次に「この練習では、おそらくこういう現象が起きるだろう」「こういうミスが出やすいだろうな」ということを、できる限り具体的に想定してみるのです。
そして、その想定される現象に対して、「自分はこういうキーファクターを伝えよう」「こういう言葉でアプローチしよう」というところまで準備しておく。
例えば、「今日のテーマはサイドからの攻撃。練習メニューは2対1の状況を作るもの。おそらく、ボールを持っている選手がドリブルで仕掛けるタイミングが遅れたり、サポートの選手が良いポジションを取れなかったりする現象が出るだろう。
その時は、ドリブルを仕掛ける選手には『相手が足を出してきた瞬間を狙おう』と伝え、サポートの選手には『ボールホルダーが顔を上げた時に、パスを受けられる位置に動き出そう』と伝えよう」というように、具体的なシナリオとコーチングのポイントを事前に整理しておきます。
さらに、パスがずれるという現象に対しては、「軸足はボールの横に踏み込むこと」「蹴りたい方向にしっかり体を向けること」「インパクトの瞬間に足首を固定すること」「フォロースルーは蹴りたい方向へ真っ直ぐ出すこと」など、観察すべきポイントと具体的な声かけの言葉を複数用意しておくことも有効です。
この事前準備があるかないかで、実際の指導現場でのコーチ自身の精神的な余裕も、選手への伝わり方も、全く変わってきます。
準備ができていれば、たとえ予想外のことが起きても、指導の軸がブレずに、落ち着いて対応しやすくなるものです
選手たちも、コーチが明確な意図を持って指導していることを感じ取り、より安心して練習に取り組めるようになるでしょう。
③それでも起きる「予想外」とトライ&エラー
もちろん、どれだけ入念に準備をしても、実際の現場では予想もしなかった現象が起きることがあります。
準備していたキーファクターが思ったように選手に響かなかったり、想定とは全く違う課題が浮き彫りになったりすることも日常茶飯事です。
でも、それで大丈夫です。
それで落ち込む必要は全くありません。
むしろ、その「予想外」こそが、指導者としての新たな「引き出し」を増やしてくれる貴重な機会だと僕は捉えています。
例えば、準備していた声かけで選手のプレーが改善しなかった場合、「なぜだろう?」と考え、選手の表情や動きをもう一度じっくり観察します。
もしかしたら、選手は指示を理解できていないのかもしれないし、あるいは別の部分に課題があるのかもしれません。
その場で選手と対話してみるのも良いでしょう。「今のプレー、どう感じた?」「何が難しかった?」と問いかけることで、選手自身も気づいていなかった本音や課題が見えてくることもあります。
大切なのは、その「予想外」に直面したときに、パニックにならず、「なぜだろう?」「どうすればもっと良くなるだろう?」と選手と一緒に考え、試行錯誤すること。
指導者も選手と同じように、トライ&エラーを繰り返しながら、少しずつ指導の幅を広げ、深めていくもの。
そのプロセス自体が、指導者としての成長に繋がると僕は信じています。失敗を恐れずに、色々なアプローチを試してみる勇気が大切です。
2.「起きた現象」と「起きなかった現象」とは?

さて、ここからがこの記事の核心部分です。
僕が指導において特に意識し、多くの指導者に見落とされがちだと感じているのが、「起きた現象」と「起きなかった現象」の両方を見ること、そしてそれぞれに対して適切なアプローチをすることです。
実は、選手がなかなか上手くならないと感じるコーチの特徴の一つに、この『現象の捉え方』の課題が潜んでいることがあります。詳しくは、以前こちらの記事でも解説しましたので、合わせてご覧いただくとより理解が深まると思います。

では、具体的に見ていきましょう。
①「起きた現象」:成功例と失敗例のフィードバック
これは比較的イメージしやすいかもしれません。
文字通り、実際に目に見える形でプレーとして現れた現象、つまり成功したプレーや失敗したプレーのことです。
例えば、A選手に「この状況では、相手DFと味方FWの間にポジションを取って、インターセプトを狙ってみよう」とアドバイスしたとします。
成功例(起きた現象):
その後、A選手がアドバイス通りのポジションを取り、見事にインターセプトに成功して攻撃に繋げた。
この時、コーチは「ナイスプレー!A君、さっき言ったポジション取り、意識できていたね!だからボールを奪えたんだ。素晴らしい!」と、具体的な行動と結果を結びつけて、ポジティブなフィードバックを送ることができます。
この際、ただ「ナイス!」と褒めるだけでなく、「あのポジションに入れたから、相手はパスコースを限定されたんだよ」など、なぜそのプレーが成功したのか、戦術的な意味合いも付け加えると、選手の理解はさらに深まります。
これにより、A選手は成功体験を得て、そのプレーへの自信を深めるでしょう。
失敗例(起きた現象):
A選手がアドバイスされたポジションを取ろうとしたものの、タイミングが遅れたり、相手の動きに対応できなかったりして、結果的にインターセプトできず、逆に相手にチャンスを与えてしまった。
この時、コーチはただ「ダメだ!」と叱るのではなく、「惜しかったね!ポジションに入る意識は良かったよ。ただ、相手がパスを出す瞬間に、もう一歩早く動き出せるともっと良くなるかもしれないね。相手の足元ばかりじゃなくて、顔の向きや体の向きも見てごらん。次、またチャレンジしてみよう!」
というように、具体的な改善点(例えば、見るべきポイント、動き出すタイミング)と再挑戦を促す言葉をかけることが大切です。
選手のチャレンジする姿勢を認めつつ、具体的な改善策を示すことで、選手は前向きに次のプレーに取り組むことができます。
このように、目に見える「起きた現象」に対して、具体的かつ建設的なフィードバックを送ることは、選手の技術向上やモチベーション維持にとって非常に重要です。
ただし、ここで注意したいのは、フィードバックのタイミングや選手の受け止め方への配慮です。
プレー直後の興奮状態や、ミスをした直後の落ち込んでいる状態では、言葉が届きにくいこともあります。
選手の様子をよく観察し、最適なタイミングで、選手が前向きになれるような言葉を選ぶことが求められます。
時には、少し時間を置いてから、落ち着いた状態で個別に話をする方が効果的な場合もあります。
②「起きなかった現象」:選手が意図したが見過ごされたプレー
ここが非常に重要なポイントであり、多くの指導者が見過ごしやすい部分だと僕は感じています。
「起きなかった現象」とは、選手はコーチのアドバイス通りに良い動きをしたり、素晴らしい判断をしたりしたにも関わらず、ボールがそこに来なかった、あるいは味方がそれに気づかなかったために、結果としてその良いプレーが目に見える成果には繋がらなかったケースを指します。
例えば、先ほどのA選手の例で考えてみましょう。
・A選手はコーチのアドバイス通りに、相手DFと味方FWの間に絶妙なポジションを取り、インターセプトを狙える完璧な準備をしていた。
・しかし、ボールを持っている味方選手が、A選手のその動きに気づかず、別の安全なコースへパスを出してしまった。あるいは、パスを出そうとした瞬間に相手に寄せられてしまい、A選手へのパスコースが消えてしまった。
・結果として、A選手の素晴らしい準備やポジショニングは、直接的なボール奪取という「起きた現象」には繋がらなかった。
この時、A選手の「素晴らしい準備」や「的確なポジショニング」は、まさに「起きなかった現象」です。
ボールが関わらなかったために、一見すると何も起こらなかったかのように見えてしまうのです。
他にも、
「味方のためにスペースを作る動きをしたが、そのスペースを誰も使わなかった」
「相手を引きつけるドリブルをしたが、フリーになった味方にパスが出なかった」
「DFラインの背後を狙う絶妙なタイミングで走り出したが、パスが出てこなかった」
など、サッカーの試合では「起きなかった良いプレー」が無数に存在します。
これらは、ボールの動きだけを追っていると見過ごしてしまいがちですが、選手の戦術眼やサッカーIQの高さを示す重要なサインであることが多いのです。
これらを見抜けるかどうかが、指導者の観察眼の鋭さと言えます。
③なぜ「起きなかった現象」へのコーチングが重要なのか?(信頼関係、選手の納得感)
初心者〜中級者、もしくはベテランのコーチでさえも、多くの指導者の方は、この「起きなかった現象」に対して、ほとんどコーチングを行いません。
そのため、選手の戦術的なスキルを伸ばせなかったり、選手との信頼関係を崩す結果を招いているケースはジュニア年代でもよく見られます。
なぜ、「起きなかった現象」を見過ごすのか。
それは、直接ボールに関与していないため、その重要性が見えにくいからです。
試合の流れの中で、ついボールの行方ばかりを追ってしまうのも無理はありません。
また、指導者自身が「結果が出ていないプレー」に対して、何をどう評価し、伝えれば良いのか迷ってしまうこともあるでしょう。
しかし、僕はここにこそコーチングの真髄があり、選手の成長を大きく左右するターニングポイントが隠されていると確信しています。