こんにちは、講師のカズです。
読者の方から以下のようなご質問を頂きました。
『エコロジカル・アプローチの本を読んだのですが、理解と実践が難しいです。パターン化させないための制約のかけ方、例えば「ボールに近い選手からプレッシング」のような制約で自己組織化は生まれるのか、それとも「お互いの長所を生かそう」のような抽象的な声かけで良いのか悩んでいます。』
エコロジカル・アプローチの実践は、多くの指導者の方が悩まれているテーマです。
しかし、以下のような悩みを持つ指導者の方も多いのではないでしょうか。
・制約をかけすぎると従来型の指導になってしまうのではないかと不安に感じる
・プレイ原則と制約の関係性がよくわからない
・適切な制約のレベルがわからない
この記事では、エコロジカル・アプローチにおける制約の考え方について解説します。
この記事を読めば、制約設定の基本的なポイントが理解できると思いますので、最後までご覧ください。
1. エコロジカル・アプローチが難しく感じる理由

エコロジカル・アプローチが難しく感じる最大の理由は、複雑系とシステム思考の理解が前提になっているからです。
サッカーは複雑系であり、システム思考的に考える必要があります。
この前提の知識があって、プレイモデルやエコロジカル・アプローチといったものが発生してきています。
大元になる考えは全部一緒で、複雑系とシステム思考です。
これをまずしっかり押さえておくと、なぜプレイモデルが必要か、エコロジカル・アプローチをどう考えるべきかが見えてきます。
ただ、その前提になる知識をサッカーの現場で解説している書籍が少ないため、多くの指導者が苦しんでいるのかなと思います。
僕自身も苦労したし、今でも苦労しているところがあります。
2. 制約の考え方:過剰制約・適切な制約・制約不足

①プレイ原則はガイドラインである
ここがとても大切なポイントです。
質問にあるように「プレッシングならボールを持ってる相手と近い選手から捕まえに行く(誰がどの選手にとかは規定しない)」というのは、制約になって自己組織化を生んでいきます。
この考え方は合っています。
ただし、「お互いの長所を生かせるように攻撃や守備をしよう」というのはダメです。
この2つの違いを理解することが重要です。
プレイモデルにおけるプレイ原則というのは、ガイドライン、あくまでもガイドです。
それによって制約をかけているようなものです。
ここで大事なのは、制約不足、適切な制約、過剰制約という3つのパターンがあるということです。
②過剰制約の問題点
過剰制約とは、例えば「相手のセンターバックが持ったら必ずフォワードが行って、サイドに出たら必ずトップ下が出る」みたいなものです。
これは運動やアクションを規定しすぎてしまい、自己組織化を起こす余白がなくなります。
何が問題かというと、選手が臨機応変に対応する余地がなくなり、パターンが固定化されてしまうことです。
③適切な制約とは
「ボール持ってる相手に近い選手から捕まえに行く」というのは、フォワードの場合もあれば、トップ下の場合もあれば、サイドの場合もあるという一定の制約として曖昧な部分を残しています。
必ずフォワード、必ずトップ下ではないから、臨機応変にやる必要があります。
つまり、この余白があるということが過剰制約ではない、適切な制約がかかっているということです。
自己組織化を促す余白が十分にあります。
これがとても大切なポイントです。
④制約不足の問題点
制約不足とは「お互いの長所を生かせるように攻撃や守備をしよう」というものです。
制約不足だと何が問題かというと、自己組織化が起きないことです。
自由度が高すぎてチームコーディネーション、選手同士のつながりを運んでいく可能性が無限にありすぎて、逆にチームコーディネーションが高まっていきません。
つまり自己組織化が起きません。
⑤鳥の群れの例で理解する
鳥の群れが全体としてまとまったようなパターンのような動きをするのは、そこに「隣の鳥とは離れすぎない」などのシンプルなルールがあるからです。
毎回そのパターンは大きく見たら同じようなパターンですが、毎回細かく見ると同じパターンでは繰り返されていません。
でもそのパターンを繰り返し生み出している。これが自己組織化を促す最大のメリットです。
もし「この鳥は必ずこう」となると自己組織化を生み出す余白がなく、逆に「どこ飛んでもいいよ」と自由度が高すぎると、鳥の群れはあのようなパターンを生み出すことができません。
3. フォーメーション変更とプレイモデルの関係

①プレイモデルは変わらない
例えば僕はチームでいくつかのフォーメーションをローテーションしていますが、プレイモデルは変わりません。
プレイ原則もプレイモデルも変わりませんが、フォーメーションが変わります。
それによって何をやっているかというと、フォーメーションが変わったり、ポジションを変えると、選手が感じるリズムとか見える景色、風景が変わってきます。
ですが、同じプレイモデルを意識しながらプレイできるかというところでやっています。
②ポジション変更で生まれる負荷
例えば8人制で2-4-1をやって、2-4-1のサイドハーフは幅を取ります。
このフォーメーションは幅を取る選手が割とわかりやすいです。
次に3-3-1に変えた時に「誰か1枚だけ幅を取ってみて、2枚同時に幅を取らないで」みたいな制約を与えた時に、今までサイドハーフをやっていた選手が内側に入ることができるのか。
今まで内側でプレイしていた選手が、状況に応じてサイドの幅を取ることができるのかというところです。
ポジションやフォーメーションが変わることによって、今までできた動きとは違うことをやらなくてはけません。
でもプレイモデルは変わらないから、今までは簡単にできたタスクが、もう少し困難になってきます。
その負荷をかけて、それでプレイモデルを遂行することができるのかというところを見ています。
③形で覚えるのを防ぐ
同じフォーメーションと同じポジションでやるとだんだん形で覚えてしまう傾向があります。
「ボランチが動いたら俺が入るパターンね」みたいな感じです。
そうならないように、バリアビリティを広げたいのでポジションを入れ替えたり、フォーメーションを変えたりしながら、そのモビリティ、流動性が出せるかというところをやっています。
例えば右のウィングの選手がずっと右にいて、その子が左に入った時には、ドリブルの仕方を変えないといけないとし、シュートの打ち方を変えないといけない状況が出てきます。
そこによって戦術的、技術的なバリアビリティが広がっていく。
プレーの幅が広がるということです。
ただ、制約としてのプレイモデルがないのであれば自己組織化は起きません。
選手は単に自由にやってるだけで、制約不足になってしまいます。
まとめ
・エコロジカル・アプローチが難しく感じるのは、複雑系とシステム思考の理解が前提にあるため
・制約には過剰制約・適切な制約・制約不足の3つがあり、適切な制約が自己組織化を促す
・プレイ原則はガイドラインであり、自己組織化を促す余白を残すことが重要
・フォーメーションやポジションを変える目的は、プレイモデルを変えずにバリアビリティを広げること
この記事では、エコロジカル・アプローチの実践における制約の考え方について解説しました。
皆さんの指導現場でも試してみてください!