こんにちは、講師のカズです。
サッカーの指導をしていると、こんな疑問を持つことがあります。
・なぜ、フォーメーションのイメージ通りに試合が進まないのか?
・なぜ、強いチームは決められた型がないのに機能するのか?
・なぜ、選手に同じ指導をしても、チームごとに結果が違うのか?
これらの疑問に答えるカギとなるのが、「複雑系(Complex System)」という考え方です。
「複雑系」とは、たくさんの要素が互いに影響を与えながら、全体として予測不能な動きを生み出すシステムのこと。
現在では、サッカーを理論的に深く理解するためには、この「複雑系」の視点が欠かせません。
また、現代サッカーの理論においては、ほとんどの考え方が「 サッカーは複雑形のスポーツである」 という前提のもとに話が展開されています。
他の理論を理解するにしても、この複雑系の概念は必ず知っておかなければなりません。
しかし、いきなり「複雑系」という言葉を聞いても、ピンとこない方も多いかと思います。
そこで、この記事ではまず「複雑系とは何か?」という基本的な考え方を、サッカー以外の身近な例を使ってわかりやすく解説します。
1.「複雑系」とは何か?簡単に解説

〜引用〜
:デジタル大辞泉(小学館)goo辞書
数多くの要素で構成され、それぞれの要素が相互かつ複雑に絡み合った系またはシステム。脳、生命現象、生態系、気象現象のほか、人間社会そのものが挙げられる。個々の要素の振る舞いや局所的な擾乱が系全体に大きな影響を及ぼす非線形性、複雑で予測不可能な振る舞いの中にも一定の秩序が形成される自己組織化といった特性をもつ。
辞書を読むと分かりにくいと思うので、簡単に解説します。
「複雑系」とは、個々の要素が相互に影響し合いながら、全体として新しいパターンを生み出すシステムのことを指します。
例えば、以下のような現象が「複雑系」の典型です。
・アリの群れ:1匹1匹のアリは単純なルール(フェロモンをたどるなど)で動いているのに、集団になると自然に効率的なルートが形成される。
・都会の交通渋滞:1台1台の車は運転手の判断で動いているのに、全体として予測不能な渋滞が発生することがある。
・天気の変化:雲、水蒸気、風などが絡み合い、短期的には予測できても、長期的には確実な予測ができない。
これらの例に共通するのは、個々の動き(部分)と、全体の動き(システム)が一致しないということです。
このように、複雑系では「小さな要素の積み重ね」が「予測不能な大きな流れ」を生み出します。
2.「単純な足し算」ではない、不思議な仕組み

複雑系の最大の特徴は、単純なルールの積み重ねが、思いもよらない結果を生むことです。
例えば、アリの群れを考えてみます。
◾️1匹のアリの行動はシンプル
・目の前の道にフェロモンがあれば、その道を進む。
・何もなければ、適当に歩く。
◾️でも、群れ全体の行動は予測不能だがパターンを形成する
・いつの間にか最短ルートが形成される。
・エサ場が変わると、群れ全体が自然にルートを変える。
このように、「個々のアリの動き」と「群れ全体の動き」は別物 です。
一見、個々のアリが自由に動いているように振る舞いながらも、 全体としての秩序を得る(パターンの形成など) という相互関係にあります。
これはサッカーにも共通するポイントで、「選手一人ひとりの動き」と「チーム全体の動き」が相互関係にあるということです。
3. 「予測不可能」だけど、法則がある

「複雑系」というと「なんでもかんでも予測できない」と思われがちですが、実はそうではありません。
例えば、天気予報を考えてみましょう。
・1週間後の天気を100%当てることは不可能(気象は複雑系だから)。
・でも、数時間後の天気なら、ある程度の精度で予測できる。
つまり、短期的には一定のパターンがあるが、長期的に見ると完全な予測はできない というのが、複雑系の特徴です。
サッカーでも、「どの選手がどの動きをするか?」を100%予測することはできませんが、「こういう状況ではこういう傾向がある」という法則性は見えてきます。
4. 「複雑系」を理解すると何が変わるのか?

この考え方を知ると、スポーツ、ビジネス、日常生活のさまざまな現象がクリアに見えてきます。
✅ 社会の動き(経済、流行、マーケティング) → 企業が何か新しい商品を出しても、必ずしも売れるわけではない。でも、ある一定の流れができると、一気に爆発的に流行する(例:SNSのバズり現象)。
✅ 人間の行動(スポーツ、組織、教育) → 1人1人の行動は単純でも、集団としての動きは意外と予測がつかない。例えば、ある学校の教育方針が変わると、5年後には生徒の考え方がまったく違うものになっている。
✅ チームスポーツ(サッカー、バスケ、ラグビー) → これについては、別の記事で詳しく話しますが、「選手1人1人の動き」と「チーム全体の動き」が必ずしも一致しないのが、スポーツにおける複雑系の最大の特徴です。
世の中にあるほとんどの現象は、複雑形であり、僕らの日常の至るところに存在しています。
なんとなく、複雑形というもののイメージができたでしょうか。
まとめ
・複雑系とは、個々の要素が相互作用しながら、全体として新しいパターンを生み出すシステムのこと。
・「個々の動き」と「全体の動き」は必ずしも一致しない。これを「創発(Emergence)」という。
・短期的にはパターンがあるが、長期的な予測は難しい(天気や経済と同じ)。
・この考え方を知ると、スポーツ、ビジネス、日常生活のさまざまな現象がクリアに見えてくる!
以上、この記事では、複雑形の基本的な考え方をわかりやすい形で解説しました。
さらに深掘りしたい方は、以下の記事も参考にしてみてください!