こんにちは、講師のカズです。
ジュニア年代のサッカー指導では、ビルドアップの方法を選手たちに教えることがとても重要です。
特に「相手がワントップの時はこう」「ツートップの時はこう」といったパターンを設定して練習することは、一見効率的に見えます。
しかし、以下のような悩みを持つ指導者の方も多いのではないでしょうか。
・パターン練習をしているのに、試合になるとうまくいかない
・選手が決められた動きしかできず、臨機応変な対応ができない
・どの選手も同じような動きになり、個性が見えなくなってきた
僕自身、過去にはパターン練習を取り入れていた時期がありましたが、選手の成長を阻害してしまうことに気づきました。
今はエコロジカルアプローチやシステム思考を取り入れて、自己組織化を促す指導に切り替えています。
この記事では、なぜビルドアップのパターン練習がうまくいかないのか、そして自己組織化を促すアプローチの具体的な方法まで詳しく解説します。
この記事を読めば、選手の個性を活かしながら、適応力の高いチームを育てる指導方法が理解できると思いますので、最後までご覧ください。
1. ビルドアップのパターン練習がうまくいかない理由

①パターン練習とは何か
パターン練習とは、事前に用意したプログラムに沿って選手を動かす指導方法です。
例えば「相手がワントップだったら2枚のセンターバックで対応して、ツートップだったらボランチが必ず下りてきて3枚で数的優位を作る」といった具合に、状況に応じた正解の動きを設定します。
これはエコロジカルアプローチの書籍でも指摘されていますが、マーチングバンドのように事前にリハーサルした動きを再現することを目指す手法です。
指導者が「ソリューションセッター」、つまり解決策を提示する存在になります。
5年、10年前であれば一定のプレーモデルの中でパターンを作る指導方法も主流でしたが、現代のサッカーではあまりうまくいきません。
②無限ループに陥る問題
なぜパターン練習がうまくいかないかというと、サッカーの試合は微妙に状況が違ったり、ズレが必ず発生するからです。
事前に用意したパターンが通用しない場面が必ず出てきます。
そうすると「この場合はこのパターン」と新しいパターンを作らなければならなくなります。
さらにその大きなパターンの中にも、環境の変化や選手の能力差による微妙なズレが生じるため、より細かなパターンを作る必要が出てきます。
こうなるともう無限ループです。
指導者も選手も、膨大なパターンを暗記しなければならなくなります。
当然、それは不可能です。
③選手の個性が埋没する
パターン練習の最も大きな問題は、選手の個性が消えていくことです。
決められたパターンでビルドアップをする場合、どの選手がやっても同じ動きになります。
選手の個性よりも、そのパターンを忠実にこなすことができるかどうかが評価の基準になってしまいます。
ターゲットムーブメント、つまり「この時はこう」という正解があって、それを正確に遂行することが求められると、イレギュラーやズレが起きたときに適応力や対応力が育ちません。
また、メンバーが変わっても同じパターンを繰り返すため、個々の選手が持つ独自の強みを活かすことができなくなります。
④再現性が高すぎる問題
試合を観察していると、「再現性が高すぎるな」と感じることがあります。
特にポゼッション型のチームで、試合が均衡していない時、例えば3対0や5対0のように差がついている時に、同じようなポイントで同じようなサイドチェンジが起きたり、同じようなポイントで中盤にパスが入ったりします。
これは自己組織化から生まれたパターンではなく、事前に決まったパターンをなぞっている可能性が高いです。
そうすると、試合が拮抗してきた時や相手が格上だった時に、そのパターンが通用せず、打つ手がなくなってしまいます。
パターン化されすぎた動きには、適応力がありません。
2. 自己組織化を促すアプローチとは

①自己組織化の具体例
では、エコロジカルアプローチやシステム思考的には何をすべきか。
それは自己組織化を促していくことです。
自己組織化を促すアプローチには、デメリットもあります。
それは時間がかかることです。
即効性がないため、今日練習したら明日使えるということはありません。
指導者は選手のミスに対して我慢する期間が長くなります。
しかし、そこを乗り越えた時のメリットは膨大です。
爆発的な成長が見られます。
自己組織化とは、鳥の群れやイワシの群れのようなものです。
環境の変化に応じて様々なパターンのようなものを生み出しますが、リーダーが「右だ」「左だ」と指示しているわけではありません。
いくつかのルールや制約があることによって、臨機応変に組織だった変化をしていくのです。
②人間に備わる能力
自己組織化する能力は、人間を含む複雑なシステム、コンプレックスシステムがDNA的に持っている能力です。
例えば、転んで擦り傷ができて血が出た時、その傷は勝手に修復していきますよね。
これも細胞レベル、解剖学的なレベルで自己組織化する能力を持っているということです。
この自己組織化する能力をいかに引き出すかが、システム思考やエコロジカルアプローチの最も重要なポイントになります。
③制約を設けて探索させる
具体的にどうするかというと、制約を設けることです。
例えばビルドアップで言えば、「相手と同数の場合は、誰でもいいから一枚下がって数的優位を作ってからビルドアップを行う」という制約を設定します。
ここで重要なのは、「ボランチの選手が必ずここに下がる」と指定するとパターンになってしまうという点です。
「誰でもいいから一枚下がる」という制約にすることで、どこに下がるのか、誰が下がるのかというソリューションは選手が探索することになります。
これがまさに「プロブレムセッター」です。
問題や課題を設定して、その課題をクリアするための解決方法は選手に委ねる。
これがエコロジカルアプローチの本質的な部分です。
④我慢が必要な期間
最初はうまくいかないこともあります。
選手は失敗して考えて、チャレンジして考えて、また失敗して考えてを繰り返します。
この探求の期間を待つ必要があります。指導者にとっては忍耐が必要です。
しかし、選手たちが自己組織化を起こす能力がある、相互作用できる能力があることを信じて待つことが大切です。
そうすることで、環境に応じた適応力が育ちます。
3. 自己組織化のメリットと実践からの学び

①適応力が高まる
自己組織化が起こってくると、選手たちはお互いのポジショニングを見ながら調整するようになります。
「こうするとうまくいく」という相互作用が生まれてきます。
そうすると、相手の出方に応じて変化することができるようになります。
「今は2枚でやれる」「今はキーパーを入れてセンターバック2枚で良い」「もう1枚センターバックかボランチが下りて3枚でやろう」といった判断を、選手たち自身ができるようになります。
これが自己組織化の最大のメリットです。
指導者も選手も暗記型でパターンを詰め込む必要がなく、環境の変化に対して選手たちが相互作用を起こしながら対応していけるようになります。
②選手の個性が活きる
パターンを教え込む指導だと選手の個性は関係ありませんが、自己組織化を促すアプローチでは選手の個性が活きます。
例えば、運ぶドリブルが得意な選手がいれば、簡単にパスを出さずにドリブルで運んで相手を剥がしてからパスを入れるというアクションが起きる可能性があります。
逆にロングボールが得意な選手が入った場合は、中盤のラインを飛ばすパスや逆サイドのサイドハーフへのパス、フォワードの裏へのパスといった個性を活かしたビルドアップができます。
パターン練習の場合、「この選手が入った時はこのパターン」「この選手の組み合わせの時はこのパターン」と、またパターンを増やさなければなりません。
しかし自己組織化を促す指導では、選手が入った時にその選手の個性を活かした動きが勝手に生まれてくるのです。
③創発現象が起きる
自己組織化が進むと、選手たちは無限にパターンを創出、想像していきます。
さらに、そこから今までやったことがないような、練習していないようなプレーが生まれてきます。
これが創発現象です。
指導者が教えていないのに、選手たちの相互作用から新しいプレーが生まれる。
この創発現象が起きることこそ、自己組織化を促す指導の最大の魅力だと僕は考えています。
④現場での実感
僕自身、ここ何年間か選手の個性をどうやって消さないようにするかを考えてきました。
いろいろ試した結果、パターンをやるというのは本当にうまくいかないし、選手の成長を阻害すると感じています。
エコロジカルアプローチを取り入れて半年やってきましたが、現場レベルでも良い成果が出ていると実感しています。
先日も練習終わりに15分ほど11対11のハーフコートのミニゲームをやりましたが、同じようなパターンであってパターンじゃない、選手の個性が光っているというのをすごく感じます。
「この選手がここに入ったらこういう展開が起きる」
「この選手がこういうプレイをしたら新しいプレイが生まれてくる」
といったことがどんどん出てきています。
システム思考を勉強していくと、サッカーのチームも個人も全て複雑なコンプレックスシステムであり、完全なコントロールや完全な予測は不可能だという前提があります。
その中でも、チームのパフォーマンス、個人のパフォーマンスをなるべく良い方向に持っていきたい。』
その時にシステム思考的、エコロジカル・アプローチ的にはどのようなアプローチをすべきかが重要になります。
エコロジカルアプローチは、システム思考の重要な部分を押さえて、それを一定のメソッドとして運動学習理論として発展させているため、すごく親和性が高く活用できると感じています。
まとめ
この記事のポイントをまとめておきます。
・ビルドアップのパターン練習は無限ループに陥り、選手の個性を埋没させる
・自己組織化を促すには制約を設けて、解決方法は選手に委ねる
・自己組織化は時間がかかるが、適応力と創発現象を生み出す
・選手の個性を活かした動きが自然に生まれてくる ・指導者も選手も、パターンの暗記から解放される
この記事では、ビルドアップのパターン練習の問題点と、自己組織化を促すアプローチについて解説しました。
基本的には、どうやったら自己組織化が起きていくのかを追求していくほうが、選手の伸び率も高くなりますし、学習効果も高くなります。
指導者としても深い構造的な部分にフォーカスできるため、成長につながります。
選手の自己組織化を起こす能力を信じて待つこと。それが現代のサッカー指導において最も大切なことだと、僕は考えています。
皆さんの指導現場でも試してみてください!