こんにちは、講師のカズです。
ジュニア年代のサッカー指導では、選手のパスミスに対してどうアプローチするかがとても重要です。
しかし、多くの指導者が「選手がパスミスをすると、すぐに技術不足だと考えてしまう」ということがあります。僕自身、20年前くらいは試合中にパスがズレると「精度が低いなあ」と思って、ドリルでやり込むということをやっていましたが、変わらないという経験をしました。
以下のような悩みを持つ指導者の方も多いのではないでしょうか。
・パスミスが起きると技術不足だと考えてしまう
・パス練習をしても試合になると改善されない
・根本的な解決方法が分からず同じミスが繰り返される
この記事では、パスミスを技術的な問題として捉える従来の考え方の問題点から、システム思考による構造的なアプローチまで詳しく解説します。
この記事を読めば、選手のパスミスの真の原因を見つける指導がスムーズになり、根本的な改善が期待できると思いますので、最後までご覧ください。
1. パスミスを技術不足と考える問題点

①直接的な原因に注目する弊害
選手がパスミスをした時に「キックミス、技術が足りないんだよね」と考えがちですが、これは本当かということを疑った方がいいと思います。
例えば高学年や中学生で、ある程度ボールが蹴れる選手が試合中にパスミスをした時に、パスの精度という因果関係に持っていくと、多分解決しないと思います。
正面でパスした時に、そんな変なキックをするわけではない選手でも、試合になるとパスミスが起きるからです。
②線形的思考の限界
パスミスをした → 技術が足りない → パス練習をしよう、
という考え方は線形的なんですね。
でも実際は、試合になっても上達しないという経験をされた方も多いかと思います。
僕も昔はワンツーのリターンがうまくいかない時に、技術の精度の問題だと思って、ドリルでやり込むということをやったんですが、変わらなかったという経験があります。
これは出来事に対して出来事で解決しようとしているからなんです。
③限定合理性という考え方
システム思考や複雑系の話でいくと、限定合理性という考え方があります。
選手が何らかのプレイをする時に、その瞬間の中で最も合理的だと思っていることをやるわけですね。
例えば、パスした方がいいのか、シュート打った方がいいのか迫られた時に、自分がパスをした方がいいと合理的に判断するわけです。
人間はわざとミスする方を選ばないので、その選手はパスした方がいいと思ったからパスをしています。
だから「そうじゃないだろ」と言われても、次は変わらないんです。
2. システム思考による原因分析の方法

①出来事と構造の違いを理解する
パスミスをしたという出来事は、誰が見ても目に見える現象です。
その出来事に一喜一憂したり、その出来事を指摘しても、意味がない、改善されないんですね。
重要なのは、その一時的な出来事だったのか、それとも長期的な挙動パターンなのかということです。
今回たまたまパスミスが起きたのであれば、それはノイズなので気にする必要はありません。
でも繰り返し出ているということであれば、もう少し深く考えていかないといけません。
②システムの構造に着目する
例えば、中盤でパスミスやサポートが悪いということが出ているという挙動が見えるのであれば、その原因を引き起こしているものは何かを考えていく必要があります。
なぜそのパスミスが起きているのか、繰り返し起きているとすれば、それは技術という線形的な考え方ではなく、もっと深い構造的な問題があるはずです。
周りが見えていないということも、本当にそうなのかを深掘りしていかないといけません。
③構造のルールや情報を変える
システムの構造自体に目を向けて、構造の仕組みを変える、構造自体をルールで変えるということが重要になります。
技術不足ではなくて、そのパスミスという出来事の奥にある構造を考えていく、その構造を捉えていくということです。
3. 実践事例:構造を変えてパスミス改善

①具体的な問題の発見
僕がやっているチームで、中盤でパスをひっかける選手がいました。
その選手の技術レベルを考えたら、ボールが蹴れないという話ではないし、なぜひっかかるのだろうということを考えました。
線形的な指導になると、ドリルやグローバルトレーニングの中で精度を上げようとか、動きながらのコントロールパスを入れた方がいいかなと思ってしまいます。
でも僕はそういう考え方は捨てて、別の方法に取り組みました。
②システム構造の分析と変更
中盤でパスをひっかける原因を引き起こしているのは、縦に攻め急いでいることだと気づきました。
チームとしてシステム構造自体を変える。
例えば中盤であっても前進できないと思ったら、1回ボールを逃して、後ろでもサイドでもいいので、そこから組み立て直すという設定に変えたわけです。
その選手がボールを持ったら早く攻めたがる、その結果、無理なところで無理矢理パスを入れて、ひっかけているという現象に対して、システム構造として縦に早く攻めようとしすぎているということがあったんですね。
③構造変更による改善効果
「ボールを持って縦に行こうと思った時に、そこが無理だと思ったら、1回下げてもいいし、逆サイドを使ってもいい。時間をかけていいよ」という感じで、構造自体を変えました。
そうすると、その選手のパスミスがものすごく激減したということがあります。
その後の試合では、すごくパスがいい流れで回るようになり、プレイがスムーズになってきました。
ガチャガチャして全部前向きに攻めないといけないということがなくなり、構造自体にフォーカスして構造のルールや情報を変えることによって、パスミスも減ってきたという事例が実際にありました。
これは、パスミスの原因を線形的に考えず、システムの中に探す、ということです。
まとめ
この記事のポイントをまとめると以下の通りです。
・パスミスを技術不足と考える線形的思考では根本的な改善は期待できない
・限定合理性の概念を理解し、選手の合理的判断を尊重することが大切
・出来事ではなく、システムの構造に着目して原因を探る
・構造のルールや情報を変えることで根本的な改善が可能
・複雑系アプローチにより指導が楽しくなり、選手の成長も促進される
この記事ではパスミスの真の原因をシステム思考で探る方法について解説しました。
従来の技術論ではなく、構造的なアプローチを取り入れることで、根本的な改善が期待できると思いますので、皆さんの指導現場でも試してみてください!
