こんにちは、講師のカズです。
少年サッカーの指導をしていると、選手が思わぬミスをしてしまう場面に遭遇することは日常茶飯事です。
「なんで今そのパスを選んだの?」「もっと周りが見えていれば…」など、指導者として頭を抱えることもあるかと思います。
「選手のミスに対して、つい結果だけを指摘してしまう…」
「『もっと周りを見ろ!』と伝えても、なかなかプレーが改善されない…」
「選手の判断ミスが、具体的にどの段階で起きているのか分からない…」
こういった悩みは、多くの指導者の方が一度は経験するのではないでしょうか。
僕自身も、指導者としてのキャリアの初期には、どうしても目に見える「実行」の部分のミスばかりに目が行きがちで、その根本的な原因を見過ごしてしまうことがありました。
実は、サッカーのプレーは単なる「実行」だけで成り立っているわけではありません。
そこには、「認知」「分析」「決断」「実行」という4つのプロセスが存在します。
そして、選手のミスの多くは、最後の「実行」だけでなく、その前の「見えないプロセス」に原因が潜んでいることが多いのです。
この記事では、このサッカーにおけるプレーの「4つのプロセス」について深く掘り下げ、選手のミスがどの段階で起きているのかを見極めるための視点と、それをどのように日々の指導に活かしていくかについて、僕の経験を交えながら具体的に解説します。
この記事を読めば、選手のプレーをより多角的に捉えられるようになり、結果だけでなくプロセスに目を向けた、より本質的なアプローチができるようになるはずです。
選手の「なぜ?」を理解し、真の成長をサポートするためのヒントが見つかると思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. サッカーのプレーを分解する「4つのプロセス(PAD+E)」とは?

サッカーのワンプレーは、一瞬のうちに行われているように見えますが、選手の頭の中と体では、いくつかの段階を経て実行されています。
スペインの指導者育成などでは、この一連の流れを「PAD+E(ピーエーディー・プラス・イー)」という言葉で表現することがあります。
これは、以下の4つの頭文字をとったものです。
P = Percepción(ペルセプション:認知)
A = Análisis(アナリシス:分析)
D = Decisión(デシシオン:決断)
E = Ejecución(エヘクシオン:実行)
つまり、選手はボールを受ける前やプレーの最中に、まず周囲の状況を「認知」し、その情報を頭の中で「分析」。
そして、どのようなプレーをするか「決断」し、最終的にそれを「実行」に移している、というわけです。
この4つのプロセスを理解することは、選手のプレーを深く読み解き、的確な指導を行う上で非常に重要になります。
① P:Percepción(認知)– 何を「見て」情報を得ているか?
最初のステップは「認知」です。
これは、選手が自分の周囲の状況(味方や相手の位置、スペース、ボールの状況など)を視覚や聴覚など五感を通じて情報をインプットする段階です。
「ボールを受ける前に、首を振って周りを見ているか?」
「相手のプレスの状況や、味方のサポートの位置を把握できているか?」
「ゴールやスペースの位置はどこか?」
この段階で適切な情報をインプットできていないと、その後の分析や決断の質も大きく下がってしまいます。
例えば、顔が上がらずにボールばかり見ていては、良いパスコースを見つけることはできませんよね。

② A:Análisis(分析)– 見た情報をどう「解釈」しているか?
次に、インプットした情報を「分析」する段階です。
これは、認知した情報を基に、「今、何が起きていて、どんな選択肢があるのか」「この状況で最も効果的なプレーは何か」といったことを、選手の頭の中で処理するプロセスです。
「認知した情報(相手の位置、味方の動き)から、どこにチャンスがあり、どこにリスクがあるかを理解しているか?」
「自分の得意なプレーと状況を照らし合わせて、成功確率の高い選択肢を考えられているか?」
この分析の質は、選手の経験や知識、いわゆる「戦術メモリー」に大きく左右されます。
多くの経験を積んでいる選手ほど、複雑な状況でも素早く的確な分析ができる傾向にあります。

D:Decisión(決断)– どんなプレーを「選ぼう」としているか?
分析を経て、次に選手は「決断」を下します。
「どのプレーを選択するか」「いつ、どこで、どのようにそのプレーを行うか」を具体的に決定する段階です。
「パスを出すのか、ドリブルをするのか、シュートを打つのか?」
「どの味方に、どんな強さ・質のパスを出すのか?」
「どのタイミングで動き出すのか?」
この決断は、一瞬のうちに行われる必要があります。
迷いがあったり、決断が遅れたりすると、チャンスを逃したり、相手に対応されたりする原因になります。
④ E:Ejecución(実行)– 選んだプレーをどう「表現」したか?
最後のプロセスが「実行」です。
これは、決断したプレーを実際の技術(キック、コントロール、ドリブル、動き出しなど)で表現する段階です。
「パスの質(強さ、方向、タイミング)は適切だったか?」
「トラップは次のプレーに繋がりやすい位置に置けたか?」
「シュートは枠に飛んだか?」
多くの指導者が選手のミスとして指摘しやすいのが、この「実行」の部分です。
もちろん技術的なミスは改善が必要ですが、そのミスが本当に「実行」だけの問題なのか、それともその前の「認知・分析・決断」のプロセスに原因があったのかを見極めることが、選手の成長を促す上で非常に重要になります。
2. なぜコーチは「実行」以外のプロセスに目を向けるべきなのか?

日々の指導の中で、選手のプレーを見て「ナイスプレー!」と褒めたり、「今のパスは良くなかったな」と指摘したりすることは多いと思います。
しかし、その評価や指摘が、もし「実行」の部分、つまり目に見えるプレーの結果だけに基づいているとしたら、それは選手の成長を最大限に引き出すことには繋がりにくいかもしれません。
① 結果論的な指導の限界
「結果が全て」という言葉もありますが、育成年代の指導においては、結果だけでなく、その結果に至るまでのプロセスに目を向けることが非常に大切です。
例えば、パスが相手にカットされてしまったという「結果」だけを見て、「パスの精度が悪い!」と指摘したとします。しかし、その選手はもしかしたら、
・パスコース自体は見えていなかった(認知のミス)
・複数のパスコースがあったが、どれが最適か判断できなかった(分析・決断のミス)
・パスコースも質も良かったが、出すタイミングが一瞬遅れたためにカットされた(決断・実行のタイミングのミス) といった、「実行」以前のプロセスに問題を抱えていたのかもしれません。
このように、目に見える「実行」のミスだけを指摘する「結果論的なコーチング」では、選手が抱える本質的な課題を見逃してしまう可能性があります。

② 「見えないミス」こそ成長のヒント
選手のミスの多くは、「実行」そのものの技術的な問題だけでなく、その前段階である「認知」「分析」「決断」という、いわば選手の「頭の中」で起きている「見えないミス」に起因しています。
「そもそも、パスを出すべき味方が見えていなかった」
「相手のプレッシャーを感じて、焦って判断してしまった」
「もっと良い選択肢があったのに、それに気づけなかった」
こういった「見えないミス」にコーチが気づき、選手自身にも気づかせてあげることができれば、選手はプレーの根本的な部分から改善に取り組むことができます。
これこそが、選手の戦術理解度を高め、真の判断力を養う上で非常に重要なポイントになると僕は考えています。
③ 「戦術メモリー」をどう蓄積させるか
選手の「分析」や「決断」の質は、その選手がこれまでにどれだけ多くの戦術的な経験や知識を蓄積してきたか、つまり「戦術メモリー」の量と質に大きく影響されます。
良いプレーをたくさん見てきたり、様々な状況で成功や失敗を経験したりすることで、選手は「この状況では、こういうプレーが有効だ」「こういう時は、これをすると危険だ」といった判断基準を自分の中に築き上げていきます。
コーチの役割は、この戦術メモリーを豊かにするための手助けをすることです。
そのためにも、単に「実行」のスキルを教えるだけでなく、プレーの背景にある「なぜそうするのか」「他にどんな選択肢があったのか」といった思考のプロセスに働きかけるコーチングが求められます。
3. 指導現場で4つのプロセスをどう活かすか?

では、この「認知・分析・決断・実行」という4つのプロセスを、実際の指導現場でどのように活かしていけば良いのでしょうか。
① 選手への「問いかけ」を工夫する
選手のプレーに対して、すぐに答えを教えるのではなく、「問いかけ」を通じて選手自身に考えさせることを意識しています。
「今、何が見えていたかな?」(認知)
「その時、どんなことを考えていた? 他にできることはあったかな?」(分析)
「なぜそのプレーを選んだの?」(決断)
「次はどうすれば、もっと上手くできそう?」(実行へのフィードバック)
こういった問いかけを繰り返すことで、選手は自分のプレーを客観的に振り返り、思考のプロセスを意識するようになります。
② トレーニング計画への応用
日々のトレーニングメニューを考える際にも、この4つのプロセスを意識することが重要です。
例えば、ある戦術的な動きを習得させたい場合、
・その動きが必要となる状況を選手が「認知」しやすいように、オーガナイズを工夫する。
・どのような選択肢があり、何を基準に「分析」「決断」すべきかを、キーファクターとして明確に伝える。
・そして、それを繰り返し「実行」できるような機会を提供する。
このように、トレーニングの目的と4つのプロセスをリンクさせることで、選手の学びはより深まります。
③ 選手の「頭の中」を理解しようと努める
最も難しいことかもしれませんが、選手の「頭の中で何が起きているのか」を想像し、理解しようと努める姿勢が、コーチには不可欠です。
選手がなぜそのプレーを選んだのか、その時どんな情報を基に判断したのか。
それらを理解しようとすることで、コーチの言葉かけも、より選手の心に響くものになるはずです。
「結果」だけを見るのではなく、その背景にある選手の「思考」や「意図」に寄り添うこと。
それが、選手の主体的な成長を促し、真のゲーム理解へと繋がっていくと僕は考えています。
まとめ
今回は、サッカーのプレーにおける「4つのプロセス(認知・分析・決断・実行)」と、それを指導に活かすための考え方について解説しました。
プレーの4プロセス:
サッカーのプレーは「認知」「分析」「決断」「実行」(PAD+E)の連続で成り立っています。
ミスの原因:
選手のミスは、「実行」だけでなく、その前の「認知・分析・決断」の段階で起きていることが多いです。
結果論からの脱却:
コーチは、目に見える「実行」の結果だけでなく、その背景にある選手の「思考プロセス」に目を向けることが重要です。
「見えないミス」へのアプローチ:
「認知できていなかった」「分析が浅かった」「決断が遅れた」といった「見えないミス」に気づかせることが、選手の成長に繋がります。
戦術メモリーの育成:
経験や知識の蓄積である「戦術メモリー」を豊かにすることが、判断の質を高めます。
指導のポイント:
選手への「問いかけ」を工夫し、トレーニング設計に4つのプロセスを意識し、選手の「頭の中」を理解しようと努めることが大切です。
選手がなぜそのプレーを選んだのか、その思考のプロセスを理解しようと努めること。
そして、適切な問いかけやフィードバックを通じて、選手自身が気づきを得られるようにサポートすること。
皆さんの指導現場でも、ぜひこの「4つのプロセス」という視点を取り入れてみてください!