こんにちは、講師のカズです。
サッカーコーチにおける役割でとても重要な部分として起きている現象を的確に捉えるスキルというものがあります。
この現象を捉えることができるという部分がコーチならではの特有な部分で、育成年代においては専門家としてのサッカーコーチとそうでない人との決定的な違いです。
そして起きている現象が見えていないと選手を成長させることができず、常に結果論的な指導に陥ってしまいます。
今回は図解とともに、目に見える現象と見えない現象、それにともなうコーチングについて詳しく解説します。
この記事を読めば、選手に信頼されるコーチングができるようになると思いますのでぜひご覧ください。
動画で解説
1.結果論的な指摘では選手は上手くならない
サッカーコーチとして一番やってはいけないミスは、目に見える結果としての現象にばかりフォーカスしてしまうコーチングです。
そのプレーにどんな意図があったか、もしくは何を意識しているか、または選手の頭の中で何が起きているか。
選手育成の鍵はプレーのプロセスにあります。
サッカーコーチの役割は選手のプレー判断を適切にするためのサポートという側面が大きいですが、成功も失敗も目に見える起きた現象だけを捉えていると、その背景にあるプロセスを捉えることができず、結果として選手の成長につながりません。
選手のミスがどこで起きたかを見極めるためには、サッカー選手がプレーする4つのプロセス「認知・分析・決断・実行」で詳しく解説しています
では、サッカーコーチがよくやってしまうコーチングの失敗例を見ていきましょう。
2.結果だけにフォーカスしたコーチング
「目に見える現象だけを指摘してしまう」とはどういうことなのか?
ここではジュニア年代によくあるケースの中から、守備のカバーリングの例をもとに解説します。
起きている現象と起きなかった現象、それに対するコーチングのあり方を見ていきましょう。
①例1:適切なカバーリングのポジションから現象が発生
最初にBの選手がカバーリングのポジションをとっており、Aが抜かれた後に上手くカバーリングを行いボールを奪取したケースです。
このような場合、当然コーチも「ナイスカバー!」と声をかけるでしょう。
コーチングとして問題はありませんが、以下のケースと比較するとコーチが的確に現象を捉えきれているかどうかが分かります。
②例2:カバーリングのポジションをとっていないが現象が出ない
次にカバーリングが現象として出なかったケースです。
上の図ではBの選手はカバーリングのポジションをとっていませんが、Aの選手が相手のドリブルに対して上手くボール奪取したケースです。
この場合、Bの選手のカバーリングのミスは現象として出てきません。
本来コーチはAの選手の守備対応を褒めるとともに、Bの選手のカバーリングにおけるポジションのミスについても指摘する必要があります。
しかしここではAの選手のボールを奪ったという現象のみを捉えており、もしAの選手が抜かれた後にBの選手のカバーリングが間に合わなかったというミス、つまり起こりうるであろう現象に気づいていません。
カバーリングという視点でフォーカスすると本来は指摘しないといけないケースですが、コーチが「目に見える現象のみをフォーカスし、起きた結果にだけ指摘」しているケースです。
③例3:カバーリングのポジションをとっておらずミスの現象が発生
次に同じポジションを取りながらもカバーリングのミスが現象として起こってしまったケースです。
Aの選手がドリブルで抜かれ、Bの選手のカバーリングが間に合わなかった状況。
ここでは例2と同じようにBの選手がカバーリングのポジションをとっていませんが、そのミスが現象として出ています。
つまり例2も例3も、Bの選手は同じポジションに立っていたにも関わらず、ミスが目に見える現象として起きたか起きなかったの違いがあります。
このような『結果にだけフォーカスするコーチング』は選手側からすると、コーチに言われたからやっている、もしくは自分が意図的に何をしないといけないかを理解できていない状態です。
しかしこのような現象が頻発しているケースでも、たまたまBの選手が後方にポジションを取り、偶然カバーリングが成功する現象も時折出てきます。
そうするとコーチングが常に結果論的になり、Bの選手は偶発性とともにプレーをやり続けることになるので、カバーリングというスキルをいつまで立っても獲得できません。
3.目に見えない現象を指摘するコーチング
では最後に適切なコーチングが行われている例を見てみましょう。
ここでは正しいポジショニングをしながらも現象が出なかった例です。
①例4:カバーリングのポジションをとっているが現象が出ない
上の図はBの選手がカバーリングを意識しながらもAの選手がボールを奪取し、結果としてカバーリングの成功が目に見える現象として起きなかったケースです。
このようなケースの場合、Bの選手は正しくカバーリングのポジションを取りAが抜かれた後の対応を意識しています。
結果としてBがボールを奪う現象は起きませんでしたが、適切なポジションをとっているのは評価できます。
したがってコーチは、結果として起きなかった現象ですが、カバーリングの意識を持っていたBの選手を評価するコーチングが必要になります。
このようなコーチングを受けた選手は「自分のポジションは正しかったんだ」という安心感を持つとともに「コーチがきちんと自分を見てくれている」という指導者への信頼感にもつながります。
このように結果として起きている現象だけでなく、起きていない・もしくは起こりうるであろう現象までを観察しコーチングを行うことで選手は戦術的なスキルを獲得していきます。
4.コーチが見るべきポイント
ではこのようなコーチングを行うためにはどのように選手を観察する必要があるでしょうか。
それはボールを中心に目で追っていくのではなく、取り組んでいるテーマが出そうな部分を意識ながらプレーを見ることです。
もちろんボールを中心に見た時に必要なコーチングもありますが、ジュニア年代の場合などはオフザボールの時に選手が何を考え、何をやろうとしているかも大事なポイントになります。
オフザボールの動きやコーチング、戦術指導のポイントは下記を参照してください。
>>参考:ボールがない時何をする?ジュニアサッカー・オフザボールの動き
>>参考:サッカーコーチが選手に戦術的スキルを獲得させる4つのステップ
5.まとめ
今回は、目に見える現象と見えない現象に対するコーチングから選手のスキル獲得に至るまでを解説しました。
重要なポイントはコーチに言われたからそのポジションにいるというケースでは選手がやるべきプレーを理解しておらずスキルの獲得に至りません。
選手がプレーを理解しているかどうか、意図的に行なっているかどうか、それは目に見える現象以外の部分にも隠れています。
その目に見えない現象を的確に捉えて指摘することが、選手の成長に効率的につながっていきます!