私は25年ほどジュニア(小学生)年代のサッカーコーチとして携り、現在はそれを職業にしています。
日本での指導現場、バルセロナ留学中も含めて今まで多くのサッカーコーチを見てきましたが、育成年代において「優秀なサッカーコーチになる」ために必要な要素として最初にパッション(情熱)が挙げられます。
しかし情熱があっても選手を育成することができなければ優秀なコーチとは言えません。
今回は良いサッカーコーチになるために理解しておきたい6つの項目について解説します。
①サッカーコーチには誰でもなれるが良いコーチには誰でもはなれない
これから育成年代のサッカーコーチになりたいと考えている方にはいきなり厳しい現実ですが、ほとんどのサッカーコーチがそれを職業にできないというのがサッカー界の現状です。
これにはクラブ・チーム運営、経営という側面も関わってきますが、根本的な要素としては「自分の指導力がどれくらいの価値があるのか?」という現実的な問題が関わっています。
つまり「価値がある指導」を提供できるのが良いコーチの条件になります。
自分が子どもたちを指導した時に、その指導に対してどれくらいの価値があるのか。
まずはこの現実を受け入れるところからスタートです。
②良いサッカーコーチになるための3つのステップ
「価値のある指導を提供できる良いコーチ」とはどのようなコーチでしょうか?
私は価値のある指導を以下の3つの項目で考えています。
1.選手のモチベーションを高めることができる
2.個人・チームを成長させることができる
3.チームを勝利に導くことができる
モチベーションについてジュニア年代を例に挙げてみましょう。
ざっくり言うと、最初は「サッカーが好きになる」ことから始まり「高いレベルに行きたい」という意識が高まり、そのために「進んで努力する」ことができるようになる。
つまりサッカーに対する意識を高め、やる気を引き出し、挫折してもそれを支えるモチベーターとしての役割です。
そのためには選手に信頼され、選手が進むべき方向へ導くことができる能力が必要になってきます。
選手を叱ることや褒めること、ユーモアを交えて親しまれること、様々な要素は全て「選手を成長させる」という大きな方向へ進むためのツールです。
いくら親しまれても選手を成長させることができなければやはり良いサッカーコーチとは言えません。
また「個人とチームを成長させることができる」に関しては文字通りです。
「チームを勝利に導く」に関しては、個人とチームを成長させないと勝利は近づきませんが、試合の勝敗を左右する要因にはまた別の要素が絡んできます。
良いコーチになるためのステップとしては選手のモチベーションを上げるのが第一段階で、個人・チームを成長させるのが第二段階、そして最後に勝利に導くといった結果が求められる段階に進みます。
>>ジュニアサッカー 子どものやる気を引き出す3つのステップ
③膨大な知識を現場に落とし込める能力
サッカーコーチという仕事はとても多くの知識を必要とします。
例えばサッカーという競技の専門的な知識は必ず必要です。戦術、テクニック、メンタル、フィジカル、ルールなどその競技特有の専門的な知識がまずはベースになります。
その他にも選手・チームを成長させるためには様々な分野の知識が必要で結果的に膨大な知識量がないと指導に深みが増していきません。
更にその知識を得た後に、子どもたちにそれを落とし込める能力が必要になります。
もし新しい知識として「サッカーにはゲームモデルが必要だ」という新しい概念を獲得した場合、それがどのようなものであるのか。
ジュニア年代に実際にどのように落とし込むのか、どのような現象が起きるのか、子どもたちに簡単に理解させるにはどのような変換作業が必要なのか、問題点は何か。
といった具合に単に知識を得るだけでなく、その先にある「現場への落とし込みが一番難しい」部分でもあります。
✔︎サッカーコーチの仕事の本質は知識を与えることではなく、選手を成長させるといった選手側の変化です。詳しくは『少年サッカーコーチの仕事は教えるではなく「できるようにする」こと』を参照してください。
④選手を1,2ランク上のレベルに引き上げる
選手はコーチが何もしなくても勝手に成長する部分もありますが、コーチとしては意図的に選手を今いるレベルからもう1つ、もしくはもう2つ上のランクのレベルに引き上げることができるかといった部分が重要になってきます。
このランクを引き上げるのが個人・チームを成長させる部分になります。
■個人の成長をどのように評価するか(例)
(例1)
・現在2部リーグで問題なくプレーできるレベルなら1部リーグで同じようにプレーできるようにする
(例2)
・1部リーグの中で突出したプレーができるようにする
これはチーム内でも同じ考えで
(例3)
・スタメンはまだ難しいレベルの選手をスタメンクラスに引き上げること
(例4)
・スタメンの選手は更にその中で突出させること
(例5)
・更に一つ上の年齢でもプレーできるようにすること
などが挙げられます。
■チームの成長をどのように評価するか(例)
(例1)
前回0-3で負けてシュートチャンスすらほとんで作れなかった対戦相手に、次の試合では引き分け以上の試合ができるようになること
(例2)
歯が立たなかったチームと対等に戦えるようになること
(例3)
対等だったチームに勝てるようになること
このように個人でもチームでも、クラブ内でも他のチームとの比較でも、選手の成長を測る基準はいくつかあります。
コーチのアプローチと選手たちの努力、その因果関係を正確に証明することはできません。
しかし、そのコーチが選手を指導しているときに毎回同じような現象が出れば、そのコーチの仕事は評価できると考えられます。
✔︎個人を成長させるためのポイントは「選手の長所を伸ばし短所を克服する方法・3つのコーチング」で詳しく解説しています。
⑤選手・チームのレベルを引き上げながら勝利すること
選手・チームのレベルを引き上げることと試合に勝てるようになることとの関係性は深いですが、試合の勝敗には更に別の要素が絡んできます。
この部分は監督・コーチの采配やスカウティング力とも関係するのですが、試合に勝利させることで選手の成長を促すことはできます。
しかし難しい問題ですが、試合に勝っているからといって選手が必ずしも成長しているかというとそうとも言い難い部分があります。
リスクをかけない単調なプレーばかりが続くと「負けにくい」傾向はありますが「選手のレベルが引き上がる」かどうかはなんとも言えません。
この辺を見極めれるかどうかはサッカーコーチとしての経験が必要になってきます。
⑥マネジメント能力
選手たち一人一人に個性があるように、サッカーに対するメンタリティもそれぞれ異なります。
モチベーションの浮き沈み、伸びている時期・伸び悩んでいる時期、異なるメンタル状態に対してそれぞれに適切なアプローチをしないと選手は成長しません。
個人に自信をつけさせなければなりませんが天狗になったら鼻を折る、そしてチーム全体を望むべき方向に持っていくことが大切です。
また育成年代、特にジュニア年代において保護者の方の関わりが子どもに大きく影響します。
指導経験があるコーチは理解しやすいと思いますが、子どもたちのマネジメントより保護者の方のマネジメントの方が難易度がはるかに高くなります。
なので選手・チーム・保護者も含めて「クラブが望むべき方向に進ませるマネジメントする能力」が必要になります。
⑦まとめ
今回は「良いサッカーコーチになるために理解しておくべき6つの項目」について解説しました。
そのほとんどが指導現場に必要なスキルですが、それを獲得するには情熱と多くの時間、経験を必要とします。
私たち指導者が常に考えなければならないのは「コーチ自身の利益」ではなく「選手の利益」に目を向けることです。
そのためには常に「自分の指導にはどれくらいの価値があるのか?」を振り返り、自分自身を高めていく必要があります。